- 著者
-
山子 茂
梶 弘典
藤塚 守
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 基盤研究(S)
- 巻号頁・発行日
- 2016-05-31
シクロパラフェニレン(CPP)を母骨格とする環状π共役分子の材料への応用を見据えた大量合成法の確立とその応用と、CPPの反応性の解明に基づく後修飾法によるCPP誘導体の合成について検討を行った。前者では、ウェットプロセスを用いた有機電子デバイスへの応用に向けて問題となっていたCPPの溶解度の解決を図った。テトラアルコキシ[10]CPPにおいて異なるアルキル置換基を持つ誘導体を前年度ダイハツ下方法でグラムスケールで合成し、溶解度の確認と、ウエットプロセスを用いた薄膜作成について検討を行った。その結果、アルキル置換基を選ぶことで[10]CPPの薄膜を作成することに成功した。さらに、作成したCPP膜の光学特性と電荷移動度とを始めて測定することに成功した。その結果、CPP単体の分子軌道エネルギーからの予想とは異なり、n型半導体特性を示すことを明らかにした。ブトキシ[10]CPPのSCLC領域(0.7 MV cm-1)における電子移動度は4.5 x 10-6 cm2 V-1 s-1と高いものではなかったが、今後のCPPのデバイス研究におけるベンチマークとなるものと考えている。後者では、芳香族化合物の代表的な反応である求電子置換反応について、臭素化反応について検討した。その結果、サイズの小さなCPPでは、2分子の臭素がCPPに付加反応を起こすことを見出した。反応は選択的にCPPにおける二つのパラフェニレン単位のイプソ位のみで起こると共に、反応するパラフェニレン単位の場所も厳密に制御され、いずれの反応においても単一の生成物が得られた。さらに、理論計算から反応性および位置選択性が熱力学的安定性により支配されており、付加による芳香族性の解消とひずみエネルギーの緩和とのバランスで決まっていることが分かった。さらに、付加体から種々のCPP誘導体へと選択的に変換できた。