著者
梶田 展人 川幡 穂高 Wang Ke Zheng Hongbo Yang Shouye 大河内 直彦 宇都宮 正志 Zhou Bin Zheng Bang
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

近年、完新世の気候変動は人類文明の盛衰に強く関係していた可能性が多くの研究で指摘されている。地球温暖化による急激な気候変動が懸念されている現在、完新世の気候変動を定量的かつ高時間解像度で復元し、そのメカニズム及び人類への影響を明らかにすることは、将来の気候変動とその社会への影響を予測する上で重要である。 東アジアの揚子江デルタでは、約7.5-4.2 cal. yr BPにかけて世界で最古の稲作を中心とした新石器文明が栄えたが、4.2 cal. yr BPに突然消滅し、300年間にわたり文明が途絶えたが,この原因は明らかになっていない。そこで、本研究では文明盛衰の背景にあった環境変動を解明すること目的とした。 中国の東シナ海大陸棚に存在する陸源砕屑物堆積帯(Inner shelf mud belt)から採取された堆積物コア(MD06-3040)のアルケノン古水温分析(Uk37’)を行い、完新世の表層水温(SST)変動を高時間解像度で明らかにした。コア採取地は沿岸の浅海であるため、SSTは気温(AT)と良い相関がある([AT] = −10.8 + 1.35 × [SST]; r2 = 0.90, p < 0.001)。よって、Uk37’-SSTの復元記録から揚子江デルタのATを定量的に推定することができる。Uk37’-SSTのデータに基づくと、Little Ice Age (約0.1-0.3 cal. kyr BPの寒冷期)など全球的な気候変動と整合的な温度変化が復元されたことから、この指標の信頼性は高いと言える。そして、約4.4-3.8 cal. kyr BPには、複数回かつ急激な寒冷化 (3-4℃の水温低下、3-5℃の気温低下に相当) が発生していたことが示された。この寒冷化は4.2 kaイベントに呼応し、顕著な全地球規模の気候変動と関連するものと考えられる。この時期に、東アジア及び北西太平洋では、偏西風ジェットの北限位置の南下、エルニーニョの発生頻度の増加、黒潮の変調 (Pulleniatina Minimum Event) などの大きな環境変動が先行研究より示唆されている。これらの要素が相互に関係し、急激な寒冷化およびアジアモンスーンの変調がもたらされた可能性が高い。本研究が明らかにした急激で大きな寒冷化イベントは、稲作にダメージを与え、揚子江デルタの社会や文明を崩壊させる一因となったかもしれない。
著者
梶田 展人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

中国の東シナ海大陸棚に存在する陸源砕屑物堆積帯(Inner shelf mud belt)から採取された堆積物コア(MD06-3040)のアルケノン古水温分析(Uk37’)を行い、完新世の表層水温(SST)変動を高時間解像度で明らかにした。コア採取地は沿岸の浅海であるため、SSTは気温(AT)と良い相関がある。よって、Uk37’-SSTの復元記録から揚子江デルタのATを定量的に推定することができた。Uk37’-SSTのデータに基づくと、Little Ice Age (約0.1-0.3 cal. kyr BPの寒冷期)など全球的な気候変動と整合的な温度変化が復元されたことから、この指標の信頼性は高いと言える。約4.4-3.8 cal. kyr BPには、複数回かつ急激な寒冷化 (3-4℃の水温低下、3-5℃の気温低下に相当) が発生していたことが示された。この寒冷化は4.2 kaイベントに呼応し、顕著な全地球規模の気候変動と関連するものと考えられる。この時期に、東アジア及び北西太平洋では、偏西風ジェットの北限位置の南下、エルニーニョの発生頻度の増加、黒潮の変調 (Pulleniatina Minimum Event) などの大きな環境変動が先行研究より示唆されている。これらの要素が相互に関係し、急激な寒冷化およびアジアモンスーンの変調がもたらされた可能性が高い。同時期は、揚子江デルタで栄えていた世界最古の水稲栽培を基盤とした長江文明が一時的に中断した期間と重なる。本研究が明らかにした急激で大きな寒冷化イベントは、稲作にダメージを与え、揚子江デルタの社会や文明を崩壊させる一因となったかもしれない。本研究のデータと考察の一部をオランダの国際誌Quaternary Science Reviews誌に投稿し、受理された。