著者
高槻 成紀 梶谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1903, (Released:2019-11-10)
参考文献数
30

丹沢山地は 1970年代からシカが増加し、その後シカの強い採食圧によって植生が強い影響を受けて貧弱化し、表土流失も見られる。このような状況にあるシカの食性を 2018年の 2月から 12月まで、東丹沢(塔が岳とその南)と西丹沢(檜洞丸とその南の中川)、西部の切通峠においてそれぞれ高地と中腹(ただし西では高地のみ)において糞を採集し、ポイント枠法で分析し、次のような結果を得た。 1)全体に双子葉植物の葉が少なく、繊維、稈が多かった。 2)季節的には繊維が冬を中心に多いが、場所によっては夏にも多かった。 3)標高比較では高地でイネ科が多かった。 4)場所比較では東丹沢ではササが多い傾向があった。 5)シカが落葉を食べている状況証拠はあるが、糞中には微量しか検出されず、その理由は不明である。これらの結果はほかのシカ生息地と比較して、シカの食物中に葉が少なく、繊維が多く、当地のシカが劣悪な食糧事情にあることを示唆する。このことから、丹沢山地の森林生態系のより良い管理のためには、シカ集団の栄養状態、妊娠率、また植生、とくにササの推移などをモニタリングすることが重要であることを指摘した。