著者
森 啓至 太田 明
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

パーキンソン病などの神経変性疾患においては、その発症原因について未だ明らかにされていないが、炎症性サイトカインの増加が発症原因の一つとして考えられている。さらにパーキンソン病では、ドーパミン細胞の変性・細胞死により種々の身体症状が現れるが、その初期症状として嗅覚異常や抑うつ状態が身体症状発現前から認められることが近年明らかとなってきた。一方、嗅覚伝達系の主要な部位である嗅球にはドーパミン細胞が存在し、嗅覚系において重要な機能を担っていると考えられる。このような背景から、lipopolysaccharide(LPS)を投与したマウスの嗅球を研究対象とし、炎症性サイトカインの嗅覚系に与える影響に関して詳細に検討を加え、神経変性疾患の病態解明の手掛かりとなることを期待し本研究課題を実施した。その結果、マウスへのLPS投与により嗅球内のTNFαおよびTNFαを介したアポトーシス誘導に関連する遺伝子発現が増加することを確認し、さらに嗅球の顆粒細胞層においてTUNEL染色陽性細胞が増加する結果を得た。また、TNFα受容体欠損マウスを用いて同様にLPSを投与したところ、TUNEL染色陽性細胞の増加は認められなかったことから、LPSによる嗅球内でのアポトーシス誘導には、TNFα受容体を介する刺激伝達系が必須のものとの結果を得た。このように、嗅球において増加した炎症性サイトカインにより細胞死が誘導されたことから、炎症性サイトカインが嗅覚系に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆されたが、嗅球のドーパミン細胞に対する影響に関しては明らかな結果は得られていない。現在、LPSの長期間投与が嗅球のドパミン細胞へ及ぼす影響について、また嗅球の機能維持に必須となる脳室下帯周囲の神経幹細胞および細胞新生機構への炎症性サイトカインの影響に関して引き続き研究を行っている。