著者
永田 昌子 堤 明純 中野 和歌子 中村 純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.29-29, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

職域における広汎性発達障害者の頻度と対応:産業医経験を有する精神科医を対象とした調査:永田昌子ほか.産業医科大学産業医実務研修センター―目的:近年,産業保健スタッフが対応するメンタルヘルス不調者の中に広汎性発達障害を抱える,もしくは疑い例に遭遇する事例が報告されている.本研究は,産業医経験を有する精神科医を対象に,職域で広汎性発達障害の事例対応に遭遇する頻度や広汎性発達障害を抱えるメンタルヘルス不調者に対して行われている就業上の配慮について,職域での実態調査を行った.対象と方法:産業医科大学精神医学教室員および同門医師122名に対して,記名式の郵送法調査を実施した.回答者の産業医経験,臨床経験,臨床場面での広汎性発達障害の経験,産業医活動のなかで広汎性発達障害の診断を受けているメンタルヘルス不調者の事例対応をした経験の有無,また,事例対応開始時に主治医より受けている診断名は広汎性発達障害ではないが,回答者自身が広汎性発達障害を疑った事例の経験の有無,事例対応の経験があるものには,職場で行った具体的な配慮,困難だった事例,成功した事例等について自由記述形式で回答を求めた.結果:56名から回答が得られた.そのうちメンタルヘルス不調者の職域での事例対応経験のある医師35名の回答を分析した.広汎性発達障害の「診断」を受けているメンタルヘルス不調者の経験を有するものは7人(20.0%),広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑ったメンタルヘルス不調者の経験を有するものは15人(42.9%),両方の経験を有するものが3人(8.6%)であり,どちらかの経験も有するものが19人(54.6%)であった.今回報告された40例のうち,事例対応開始時に診断名がついていたものが12例,回答者が疑った事例が28例,そのうち調査票回答時までに診断に至っていたものが7例であった.広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑った理由として多かったのは,職場での対人関係のトラブルを起こすというエピソードであった.「診断」を受けている事例は,産業医が疑った事例より具体的な配慮が行われていた.また,就業上の配慮として上司に対しての障害特性についての説明や業務内容の変更などが実施されていた.地域の社会資源の活用状況として,広汎性発達障害の診断を受けている,または疑った事例対応経験のある回答者19人のうち,発達障害支援センターや地域障害者職業センターの利用した経験を有する回答者は2人(10.5%)であった.考察:調査対象となった産業医経験のある精神科医の半数に広汎性発達障害の診断がついた,もしくは疑った事例の対応の経験があり,職域で広汎性発達障害を持つ労働者の事例対応をすることは稀ではないことが示唆された.産業保健スタッフは,広汎性発達障害の知識,職場での適切な配慮の仕方,利用できる社会資源についての理解を深める必要があると考えられた.
著者
森 晃爾 藤代 一也 井上 尚英
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.343-347, 1990-09-01

雄および雌ラットに対し, 250ppmの濃度の酸化エチレンを1日6時間, 週5日, 17週間吸入曝露し, 酸化エチレンによる貧血の性差を調べた. その結果, 酸化エチレン曝露群では, 雄ではヘモグロビン濃度で12,7%, 雌では17.8%と, それぞれ対照群と比較して有意な減少が認められたが, その程度は雌で著しかった. また酸化エチレン曝露群では, 牌臓の絶対重量は雌のみで, また体重との相対重量では雌雄で, 有意な増加を認めた. これまで我々は,赤血球中のグルタチオンレダクターゼ活性の低下が, 酸化エチレンの貧血の発症に強く関与していることを認め報告してきたが, 今回グルタチオンレダクターゼ活性の低下は, flavin adenine dinucleotide非存在下でも, 存在下でも, 雌雄同程度で, 性差は認められなかった. 以上, 酸化エチレンによる貧血の発症には性差がみられることがわかった.(1990年5月14日 受付, 1990年6月25日 受理)