著者
森下 久美 渡辺 修一郎 長田 久雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.564-571, 2021-08-15 (Released:2021-08-11)
参考文献数
35

目的 就業時に自覚される疲労感は,労働災害のリスク要因である。高齢就業者においては,低い運動機能および認知機能が,疲労感を高めることが報告されている。本研究では,これら心身機能状態で高齢就業者を類型化し,それぞれの疲労対処行動の特徴を検討した。このことによって,今後更なる増加が見込まれる後期高齢層の就業者への疲労管理を検討する基礎資料としたい。方法 対象は,東京都A市シルバー人材センターに所属し,屋外作業に従事する高齢就業者224人から,運動機能と認知機能の4象限から各10人ずつ選定した。類型は,①両機能ともに良好なBoth-High群,②運動機能にのみ低下がみられるMotor-Low群,③認知機能にのみ低下がみられるCog-Low群,④両機能ともに低下がみられるBoth-Low群である。調査は,半構造化面接を実施し,内容分析にてサブカテゴリーおよびカテゴリーを生成した。また,各群の特徴を検討するために,「対処の焦点」(原因/症状)および「対処の環境」(Work/Life)を区分し,コード数をKruskal-Wallis検定およびDann-Bonferroni法を用い4群間で比較した。結果 内容分析の結果,350コードより32のサブカテゴリーと9のカテゴリーが抽出された。〈こまめな水分補給〉〈気温・天候に適した服装〉といった【気温対策】は,4群で共通して多く認められた。各群で多く認められた対処として,Both-High群では〈日常的な運動〉〈こまめな休憩〉,Motor-Low群では〈就業後の昼寝〉〈日常的な運動〉〈保護具・作業補助具の使用〉〈痛み止め等の使用〉,Cog-Low群では〈質の良い睡眠習慣〉〈日常的な運動〉,Both-Low群では〈前日早めの就寝〉があった。4群間でコード数を比較した結果,〔原因〕(P<.01)および〔Work〕(P<.01)にて有意な差が認められ,多重比較の結果,Motor-Low群は,Cog-Low群およびBoth-Low群よりも,平均コード数が有意に高かった(いずれもP<.01)。結論 シルバー人材センターに所属する高齢就業者の疲労対処行動は,運動機能および認知機能状態によって,異なる特徴が認められた。今後,高齢就業者への健康管理においては,就業者の心身機能の把握および,機能状態に合った疲労管理のための配慮が求められる。