著者
今井 忠則 長田 久雄 西村 芳貢
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.433-439, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
21

目的 「生きがい」を測定する簡便な尺度の実用化のために,9 項目から構成される「生きがい意識尺度(Ikigai–9)」の信頼性と妥当性を検討した。方法 60歳以上の地域中高年者428人(男性128人,女性300人,平均年齢65.4±4.3歳,範囲60~85歳)を分析対象として,尺度の得点分布,信頼性(Cronbach の α 係数),SF–36v2 との併存的妥当性,因子的妥当性を検討した。尺度は,「生きがい概念の高次因子モデル」を構成概念とし,モデルの観測変数である 9 項目で構成された。回答は各 5 件法で求め,各素点を合計して総得点(範囲 9~45点)および 3 つの下位尺度得点(範囲3~15点)を算出した。結果 得点の分布は,総得点および下位尺度得点ともに分散していた(とくに,総得点では統計学的正規性が認められた)。尺度の信頼性は,全体で α=.87,下位尺度ごとでは α=.76~.82であった。総合点と SF–36v2 の身体的健康度(PCS)との相関は無相関(rs=−.05, P=.33),精神的健康度(MCS)との相関は正の相関(rs=.33, P<.001)であり,理論的予測と一致し,併存的妥当性が確認された。また,確認的因子分析の結果,高次因子モデルの適合度は GFI=0.95等と良好であり,因子的妥当性が確認された。結論 60歳以上の地域中高年者を対象とした場合の Ikigai–9 の得点分布•信頼性•妥当性は良好であり,高い実用性が示された。
著者
佐野 智子 森田 恵子 奥山 陽子 伊藤 直子 長田 久雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.288-299, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
35
被引用文献数
2

目的 加齢性難聴は大きな健康課題のひとつであり,早期の発見が望まれる。難聴の簡易スクリーニング検査として,指こすり音聴取検査があるが,これまでは加齢性難聴を対象として検討されてこなかった。本研究の目的は,従来の方法を改良した「指こすり・指タップ音聴取検査(Finger Rub/Finger Tap screening test: FRFT検査)」を提唱し,加齢性難聴のスクリーニング検査として,その有効性を検討することである。方法 健康状態を比較的維持し,地域で自立した生活を送っている65歳以上の高齢者を対象とした。介護予防事業(運動教室)の参加者のうち調査協力に同意した73人を対象とし,FRFT検査と純音検査を実施した35人(70耳)を分析対象とした。FRFT検査は,耳からの距離5 cm,30 cm,60 cmの条件で,指こすり音および指タップ音を2回ずつ提示し,その反応を記録するものである。正答を1点,誤答および無答を0点として得点化した。純音検査の結果から4周波数平均聴力を算出し,平均聴力とFRFT合計得点のスピアマンの順位相関係数を算出した。FRFT検査得点を検定変数として,receiver operating characteristics(ROC)解析を行い,感度・特異度からFRFT検査の妥当性を検討した。状態変数は,軽度難聴以上の有無と中等度難聴の有無の2種類で行った。結果 純音聴力とFRFT合計得点に有意な負の相関(r=−0.79, P<0.01)があり,併存的妥当性が確認された。ROC解析により,FRFT合計得点は感度97.6%,特異度71.4%で26 dB以上の難聴を検出可能であった。また,60 cm条件を含めない短縮版(5 cm条件と30 cm条件の合計)でも,感度95.2%,特異度71.4%で26 dB以上の軽度難聴を検出できた。結論 FRFT検査によって,加齢性難聴のスクリーニングが可能であることが明らかになった。非検査耳を遮蔽することなく,軽度難聴以上を検出することができる,非常に簡便で,非侵襲性の高い,優れた検査であることが示された。また,音響分析によって,指こすり音は高音漸傾型の難聴に,指タップ音は低音障害型や全般的に聴力低下がみられる耳垢栓塞にも有効である可能性が示唆された。
著者
森 秀美 長田 久雄
出版者
一般社団法人 日本健康心理学会
雑誌
健康心理学研究 (ISSN:09173323)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.61-68, 2007-12-25 (Released:2014-03-28)
参考文献数
17

Codependent tendency between nurses and patients was examined and the effects of this tendency in nurses on patients' self-care agency, satisfaction with nurses, compliance and adherence were investigated. Participants included nurses and inpatients in a hospital who responded to questionnaires. Results showed that although the code-pendent tendency was not significantly different between nurses and patients, some aspects of compliance and adherence of patients, and their satisfaction with nurses were low when the nurses' codependent tendency was high. The findings from this study suggest that it is important for nurses to be aware of their own codependent tendency when developing a healthy nurse-patient relationship.
著者
菊池 和美 長田 久雄
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

報告者は, 参与観察調査および実証研究を通して, 犬の飼い主らが自らの住む地域コミュニティで行っている「犬の散歩」が,飼い主にとっての,人々との地域交流関係の形成と維持の機会となること,また,その関係性の発展が地域コミュニティにおける潜在的な人的資源形成に繋がり,散歩を行う地域社会への愛着と関心「わが町意識」を高め,ソーシャル・キャピタル醸成のプラットフォームとなる可能性を有することを指摘した.
著者
長田 久雄
出版者
日本老年臨床心理学会
雑誌
老年臨床心理学研究 (ISSN:24364568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.27-31, 2019-10-20 (Released:2023-01-04)

本稿では、本学会の設立に際して老年臨床心理学の可能性と課題について述べる。特に,通常,老年臨床心理学の課題とされる認知症やうつ病ではなく,対象として可能性のある領域に関して筆者の体験に基づき私見を述べる。また,老年臨床心理学の対象に関して,活動拡大の可能性について考察する。高齢者の就労の問題など,今後,老年臨床心理学の実践が求められる領域に関しても言及した。老年臨床心理学は必要性が一層高まると考えられるので,本学への期待も大きい。
著者
加藤 佐千子 長田 久雄
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.5-18, 2022 (Released:2022-08-14)
参考文献数
17

Objective: To clarify how elderly women living alone, who were 80 years of age or older, define food activities in their life courses and how they perceive current food activities.Method: The participants were 12 women living alone who were over 80 years old. A semi-structured interview was conducted from August to December 2016 with the consent of the participants. Their conversations were recorded and the verbatim records were analyzed using M-GTA (Modified Grounded Theory Approach).Results: 63 concepts, 15 categories, 2 sub core categories and 1 core category were extracted. Food activity was recognized as a role of the wife and mother. Participants also affirmed their role in the main stages of life. However, as they moved to living alone, they re-evaluated the role they had accepted, and realized that they had moved to activities that were valuable, meaningful, and feasible to them. They were also aware that they had accepted social connections through food activities.Conclusion: Elderly women have accepted the connection with society through food and have changed the meaning and content of food activities according to their individual lives.
著者
森下 久美 渡辺 修一郎 長田 久雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.564-571, 2021-08-15 (Released:2021-08-11)
参考文献数
35

目的 就業時に自覚される疲労感は,労働災害のリスク要因である。高齢就業者においては,低い運動機能および認知機能が,疲労感を高めることが報告されている。本研究では,これら心身機能状態で高齢就業者を類型化し,それぞれの疲労対処行動の特徴を検討した。このことによって,今後更なる増加が見込まれる後期高齢層の就業者への疲労管理を検討する基礎資料としたい。方法 対象は,東京都A市シルバー人材センターに所属し,屋外作業に従事する高齢就業者224人から,運動機能と認知機能の4象限から各10人ずつ選定した。類型は,①両機能ともに良好なBoth-High群,②運動機能にのみ低下がみられるMotor-Low群,③認知機能にのみ低下がみられるCog-Low群,④両機能ともに低下がみられるBoth-Low群である。調査は,半構造化面接を実施し,内容分析にてサブカテゴリーおよびカテゴリーを生成した。また,各群の特徴を検討するために,「対処の焦点」(原因/症状)および「対処の環境」(Work/Life)を区分し,コード数をKruskal-Wallis検定およびDann-Bonferroni法を用い4群間で比較した。結果 内容分析の結果,350コードより32のサブカテゴリーと9のカテゴリーが抽出された。〈こまめな水分補給〉〈気温・天候に適した服装〉といった【気温対策】は,4群で共通して多く認められた。各群で多く認められた対処として,Both-High群では〈日常的な運動〉〈こまめな休憩〉,Motor-Low群では〈就業後の昼寝〉〈日常的な運動〉〈保護具・作業補助具の使用〉〈痛み止め等の使用〉,Cog-Low群では〈質の良い睡眠習慣〉〈日常的な運動〉,Both-Low群では〈前日早めの就寝〉があった。4群間でコード数を比較した結果,〔原因〕(P<.01)および〔Work〕(P<.01)にて有意な差が認められ,多重比較の結果,Motor-Low群は,Cog-Low群およびBoth-Low群よりも,平均コード数が有意に高かった(いずれもP<.01)。結論 シルバー人材センターに所属する高齢就業者の疲労対処行動は,運動機能および認知機能状態によって,異なる特徴が認められた。今後,高齢就業者への健康管理においては,就業者の心身機能の把握および,機能状態に合った疲労管理のための配慮が求められる。
著者
笹田 哲 長田 久雄
出版者
一般社団法人 日本健康心理学会
雑誌
健康心理学研究 (ISSN:09173323)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-10, 1997 (Released:2015-04-23)
参考文献数
20

The Multidimensional Health Locus of Control (MHLC) scales developed by Wallston et al., were applied to 82 subjects with cerebral vascular accidents with a view to objectively deciding the patients' health locus of control. As a result, an external control tendency was observed. The result of the analysis revealed that no major effect was observed in internality (IHLC) or powerful others (PHLC), while a major effect was observed in chance (CHLC) externality when comparing sex differences or hypercortical dysfunction. There were no observable interactions among any of these factors. From the above findings we concluded that loss of confidence occured from difficulties experienced in their daily lives due to cerebral vascular accidents and that the subjects became more susceptible to incidents and accidents. Also, it is suggested that the sence of health locus of control is not related to lesions in the right and/or left hemisphere but to gender difference and/or hypercortical dysfunction. Therefore, it is necessary to regard hypercortical dysfunction as a vital factor affecting the health locus of control instead of simply regarding it as one of the symptoms. The Multidimensional Health Locus of Control (MHLC) Scales are useful for evaluating the health locus of control of patients with hypercortical dysfunction.
著者
片山 富美代 小玉 正博 長田 久雄
出版者
一般社団法人 日本健康心理学会
雑誌
健康心理学研究 (ISSN:09173323)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.28-39, 2009-12-31 (Released:2014-03-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

In the present study, we developed the Japanese version of the Illness Perception Questionnaire (J-IPQ) and evaluated its reliability and validity. New items for three emotional representation dimensions (i. e., positive affect about illness, positive/negative affect about treatment) were added to the original scales of Moss-Morris et al. (2002). We administered the J-IPQ to 169 hemodialysis (HD) patients, and another 24 HD patients completed it in 4weeks interval for test-retest reliability. We also administered the J-IPQ to 30 patients with chronic respiratory disease for testing cross-validation. Factor analysis revealed that the J-IPQ generally produced the same structure as the original scales, though the “acute/chronic timeline” was divided into “acute timeline” and “chronic timeline”. The coefficients of the J-IPQ items on the test-retest showed good enough reliability (r = .42 to .86). The respiratory sample showed the overall validity of the scales (α= .68 to .97), except for the dimensions of “acute timeline” (α= .38) and “illness coherence” (α= .58). We concluded that the J-IPQ is reliable and valid for assessing Japanese patients’ illness perception in research.
著者
柳澤 健 新田 收 笠井 久隆 猫田 泰敏 飯田 恭子 菊池 恵美子 長田 久雄 福士 政広 齋藤 秀敏 福田 賢一
出版者
日本保健科学学会
雑誌
東京保健科学学会誌 (ISSN:13443844)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.276-281, 2000-03-25 (Released:2017-10-27)

東京都立保健科学大学生の国家試験合否予測などを目的として、東京都立医療技術短期大学生の入学・在学時成績と医療系国家試験合否との関係を(1)入学選抜方法と国家試験合否, (2)入学選抜方法(一般入試・推薦入試)と退学・除籍者数, (3)一般人試成績と国家試験合否, (4)学内成績と国家試験合否, (5)一般入試成績と学内成績, および, (6)国家試験の得点予測の6項目に分けて統計学的に分析した。対象は同短期大学に入学した1,132名で, 入学選抜方法, 一般入試成績, 学内成績, および国家試験の合否を指標に調査した。その結果, (1)入学選抜方法の相違による国家試験合格率に有意差はなかった。(2)一般人学に比べ推薦入学で退学・除籍者が多い傾向がみられた。(3)一般入試の成績は国家試験合格群と不合格群の間で有意差がなかった。(4)多くの学内主要科目の成績において国家試験合格群は不合格群に比べ高得点であった。(5)一般入試成績と学内成績との間に相関はなかった。(6)4学科のうち2学科で国家試験の得点予測式を試作した。
著者
今井 忠則 長田 久雄 西村 芳貢
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.433-439, 2012

<b>目的</b> 「生きがい」を測定する簡便な尺度の実用化のために,9 項目から構成される「生きがい意識尺度(Ikigai–9)」の信頼性と妥当性を検討した。<br/><b>方法</b> 60歳以上の地域中高年者428人(男性128人,女性300人,平均年齢65.4±4.3歳,範囲60~85歳)を分析対象として,尺度の得点分布,信頼性(Cronbach の α 係数),SF–36v2 との併存的妥当性,因子的妥当性を検討した。尺度は,「生きがい概念の高次因子モデル」を構成概念とし,モデルの観測変数である 9 項目で構成された。回答は各 5 件法で求め,各素点を合計して総得点(範囲 9~45点)および 3 つの下位尺度得点(範囲3~15点)を算出した。<br/><b>結果</b> 得点の分布は,総得点および下位尺度得点ともに分散していた(とくに,総得点では統計学的正規性が認められた)。尺度の信頼性は,全体で α=.87,下位尺度ごとでは α=.76~.82であった。総合点と SF–36v2 の身体的健康度(PCS)との相関は無相関(rs=−.05, <i>P</i>=.33),精神的健康度(MCS)との相関は正の相関(rs=.33, <i>P</i><.001)であり,理論的予測と一致し,併存的妥当性が確認された。また,確認的因子分析の結果,高次因子モデルの適合度は GFI=0.95等と良好であり,因子的妥当性が確認された。<br/><b>結論</b> 60歳以上の地域中高年者を対象とした場合の Ikigai–9 の得点分布•信頼性•妥当性は良好であり,高い実用性が示された。
著者
長田由紀子 長田 久雄
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-10, 1994
被引用文献数
3

本研究の目的は, 高齢者の回想の特徴および回想と適応との関係を若年者と比較し, 老年期における回想の意味を検討することである。われわれは, 目常生活において自然に起こる回想の量を測定するために, 8項目からなる回想尺度を作成し, 質問紙を用いて個人の回想の量の測定を行なった。対象者は18〜24歳の132名 (学生群) , 40〜64歳の97名 (壮年群) , 65〜95歳の133名 (老年群) であった。回想の量について3群の差を検討した結果, 他の2群に比べて学生群の回想の量が多いことが示された。老年群でよく回想をする者は現在満足度が低く, 死について意識することが強く, 死の不安が強い傾向が示されたが, 回想に対して「気分転換」や「重荷から解放される」という効果を感じていた。結果から, 青年期における回想は自我同一性の確立を反映している可能性が示唆された。また, 老年期において回想を行なうことが, 死を意識することと関係があることが示された。老年期における回想の高頻度と, 満足度の低さとの間に関係が示されたが, この結果は, 回想による人生の統合が失敗に至ったことを示唆するとともに, 不適応状態への対処として回想が用いられる可能性を示唆するものであった。