- 著者
-
森下 忠
- 出版者
- 駿河台大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1990
平成2年度には,犯罪人引渡法の基礎理論の研究をすることに心がけた。その成果の一部として,「犯罪人引渡法における相互主義」と「犯扱人引渡法における政治犯罪の概念」とを雑誌で公表した。前者は,わが国では未開拓の研究テ-マであったと思われる。後者は,最近における立法例や条約に現れた政治犯罪の概念について考究したものであって,従来,主として国際法学者が研究してきたものを大きく修正するものである。両論文とも,わが国の学界と実務界に寄与するところは大きい思われる。平成3年度には,「犯罪人引渡法における仮逮捕」と「自国民不引渡しの原則」という二つの論文を書いた。前者は,これまでわが国に全く知られていなかった問題点を扱ったものであって,わが国の逃亡犯罪人引渡法の改正に役立つであろう。外国では,「仮逮捕」が活発に行われている。国際犯罪の国際的防止のためには,わが国も先進諸外国と歩調をそろえる必要がある。後者は,これまで伝統的に支持されてきた自国民不引渡しの原則につき、その合理的理由のないことを論述し,あわせて近時の条約や立法例が不引渡しの原則を修正していることを指摘したものである。このほかにも,犯罪人引渡法については,考究すべき問題点は,実に多い。比較法的な基礎研究が欠如しているわが国では,このような地味な研究を進展させることは,困難である。わが国における外国人犯罪が急激に増加し,また,国際犯罪防止のために国際的連帯性の強化の必要性が叫ばれている現在,より多くの研究者がこの分野の研究につき力をあわせることが強く要請される。