著者
森下 裕之 宮崎 猛
出版者
富民協会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.256-261, 2008-06-25
参考文献数
4
被引用文献数
3

中国雲南省元陽県には、世界遺産に申請中の世界最大級の棚田がある。少数民族のハニ族が耕作する棚田農村では、森林(聖山・聖樹)・棚田(稲魂)保全の伝統文化による有機物と水・蒸気・降雨との循環システムの保全活動、アジア・モンスーンの気候風土に基づく生物多様性を最大限に活用した棚田中心の農畜漁業の発展、自給自足に近い自然主義的稲作を中心に多様な生物相から少しずつ食料を地産地消する生活がみられ、近年の農業生産力の発展は高い人口の伸びをもたらしている。しかし、中国経済の高度経済成長は内陸部の山間僻地にある棚田農村でも、青壮年層の出稼ぎの急増と観光客の増加として影響を強めている。出稼ぎの増加は、棚田の粗放的管理や耕作放棄による棚田の崩壊を引き起こし、観光客の増加に対応した農家楽の振興は、農民間の貧富の格差拡大や観光公害等の新しい農村問題を引き起こしている。本稿では、元陽県新街鎮土戈寨村での農家調査に基づいて、主要な現金収入源である出稼ぎと農家楽を分析する。とくに個人営と集落営の2タイプの農家楽を分析して、棚田農業保全のための出稼ぎの抑制と貧富の格差是正とのためには、集落営の農家楽が効果的であることを明らかにする。本稿は、住友財団の環境研究助成「中国雲南省元陽県の棚田における持続的農業と循環型社会の構築に関する学際的研究」の成果の一部である。