著者
森下 豊昭 月木 博明
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.357-368, 1996

足尾銅山を発生源とする渡良瀬川流域の重金属汚染問題については,古在由直氏による先駆的な研究を始めとして,多くの調査,研究,試験結果が報告されてきた。かつての様な収穫皆無と云う深刻な鉱毒被害という側面が解消するにつれ,また1973年の足尾鉱山の閉山,製錬所の操業規模の大幅縮小もあって,渡良瀬川水系における重金属汚染に関連した諸問題が過去のものとして葬り去られてしまう節さえある。 現在,足尾の鉱山,製錬所周辺では公害の後始末としての煙害地の緑地化,鉱滓堆積場の被覆化等が行われてきており,足尾鉱山の公表されている14の鉱滓堆積場については,使用中の簀ノ子堆積場を除き,覆土植栽等の事業が1972年から87年度にかけて行われ,これをもって鉱害防止事業を終了した。しかしながら,現地を一見しても,また流域の予備調査の結果から見ても環境改善の努力が結実したとは決して云えない状況にあると推定される。足尾の鉱毒は単に過去において流域に被害をもたらしただけでなく,流域と周辺地域における将来の再汚染の問題も含め,現在においてもなお課題を残していると予想される。 日本の各地には多くの休廃鉱山,休廃製錬所が簡単な対策がなされたまま放置されており,潜在的な汚染源となることが危惧されている。本研究は,その典型的な事例の一つとして,渡良瀬川水系における底質~懸濁物質~河川水という水系全体における重金属等の挙動の解析を通じて,汚染の現状と問題点を明らかにしようとするものである。