- 著者
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森中 定治
新川 勉
- 出版者
- THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.2, pp.83-92, 1996-06-20 (Released:2017-08-10)
- 参考文献数
- 21
Taiuria discalis(ディスカリスタカネフタオシジミ,タカネフタオシジミ属,シジミチョウ科)の原名亜種の再記載と中央バリ,東ジャワに生息する個体群をそれぞれ,新亜種T.d.centralis,T.d.triangularisとして記載し,生態的知見の報告,ならびに系統関係の推定に関する若干の議論を行った.T.d.centralisは,雄は前翅表面の外縁黒帯が細く(第5脈の1/2程度),一方原名亜種は幅広いこと(第5脈の2/3程度),雌は両翅表面基部の淡青色が原名亜種では灰色であること,後翅表面の外縁黒帯が細く(第2脈の0.3-0.4程度),一方原名亜種は幅広いこと(第2脈の0.4-0.6程度)などから識別できる.T.d.triangularisは,雄は前翅表面中央部の黒班が小さくなること,同外縁黒帯がさらに細く(第5脈の1/3程度)なること,雌は両翅表面基部の淡青色が原名亜種では灰色であること,後翅表面の外縁黒帯がさらに細く(第2脈の0.2-0.3程度)などから識別できる.また,T.d.centralisは,800m以上の山地の林内および林縁で観察された.10:00-14:00に,広葉樹の周辺で飛翔と葉上での静止を繰り返すテリトリー行動が観察された.T.discalisとT.igolotianaの類似性については最初,高波(1983)が指摘した.筆者等は,交尾器を含む形質状態を,他のTaiuria属を含む種々のシジミチョウと比較検討した結果,T.igolotianaがT.discalisと単系統群を構成する最も近縁な種であることを見出した.これらの種が,スンダランドから移動してきた氷河期の遺存種であるなら,その近縁種がボルネオなどの山岳地帯に生息する可能性が考えられる.さらに鱗翅目,特にチョウに限ってみても,多くの研究者がスラウェシとミンダナオの生物地理学的な関連性を指摘している.T.discalisがジャワ-小スンダ列島に,その近縁種igolotianaがフィリピンに生息することから,分布の空白地帯であるスラウェシにこれらと単系統群を構成する未知種,あるいはこれらの種のいずれかが発見されることも予測される.