著者
森岡 亨
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.95-97, 2005

肥満患者の神経ブロックにはしばしば難渋する. 38歳男性 (168cm, 124kg), および幼児期のポリオ後遺症で腰下肢の運動障害, 萎縮, 躯幹の肥満の51歳男性 (身長測定不能, 体重75kg) に, 脊髄麻酔下の痔疾手術が企図された. 前者では高度の肥満のために腰椎棘状突起や腸骨稜を触れず, 後者では胸郭変形, 脊柱の側膏と長軸方向捻転, 骨盤の非対称性のため, くも膜下穿刺ができなかった. 両者とも腎部の肥満のために仙尾骨も触れなかったが, 肛門内指診では, 仙尾骨前面には余分の脂肪組織がなく, 直腸内から仙尾骨の輪郭を容易に確認できた. 肛門内外からの双手診により得た立体感覚を基礎に, 体表からの仙骨硬膜外麻酔による適確な神経ブロック効果が得られ, 手術が可能になった. 仙骨硬膜外麻酔の安全性の向上や適応拡大のために, 肛門内指診の機会をみつけ, 仙尾部の解剖学的関係を直腸側からも体感しておくことを, ペインクリニシャンや麻酔科医に勧めたい.