著者
太田 恵 小川 智美 遠藤 正樹 森島 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100446, 2013

【目的】近年の学生の一部には、教育上無視できないコミュニケーションスキルやソーシャルスキルの低さが認められる。それらの能力不足は、臨床実習で不合格になる要因になり得るが、学力とは必ずしも相関しないため、学科試験だけで見抜くことは難しい。そこで本研究では、入学試験時における面接試験の成績とその後の臨床実習の成績との関係を明確にし、入学直後からの学生指導の可能性を検討した。【対象と方法】平成18年度から21年度までに当校に入学した者のうち、臨床実習より以前に退学した者および現在の在校生を除外した190名(男性136名、女性54名、平均年齢25.9±6.3歳)を解析対象とした。当校では、入学試験において、口頭試問および集団面接の二種類の面接試験を実施している。前者は、3名から4名の受験者に対し、試験官である教員が一人ずつに質疑を行う形式である。一方後者は、8名から10名の受験生がグループになり、他の受験生と提示された課題を進めていく形式で、他者との関わりを見るものである。それぞれ3名から5名の教員が試験官となり、服装・言葉使い・積極性・適正・対人適応等の観点から 1点(非常に悪い)から4点(非常に良い)の段階評価を行なった。複数回受験している者に関しては、最後の試験の成績を採用した。全試験官の評定がいずれも3点以上だった群85名(入試高位群: 男性56名、女性29名、平均年齢24.4±5.3歳)と2点以下の評定が付いた群105名(入試低位群: 男性80名、女性25名、平均年齢27. 2±6.8歳)に分けた。各群において、臨床実習で合格した者(実習合格者)、学生自ら臨床実習を中止した者(実習中止者)、臨床実習指導者の判断で不合格となった者(実習不合格者)について、それぞれオッズ比を算出し、Fisher直接確率検定を用いて解析した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本校は倫理委員会設置しておらず、同等の権利を持つ組織の承認を得て実施した。尚、個人を特定するようなデータは含まれていない。【結果】入試高位群は、実習合格者68名、実習中止者6名、実習不合格者11名であった。それに対して入試低位群は、実習合格者69名、実習中止者5名、実習不合格者31名であった。実習中止者については群間で有意差はなかったが、実習不合格者については、入試低位群は入試高位群と比較しオッズ比2.777(95%信頼区間1.292-5.969) と高値を示した。また実習合格者137名のうち、いずれの形式の面接でも3点以上だった者が68名(男性42名、女性26名、平均年齢24.7±4.9歳)、口頭試問のみ2点以下だった者が10名(男性5名、女性5名、平均年齢25.3±6.5歳)、集団面接のみ2点以下だった者が34名(男性25名、女性9名、平均年齢26.2±4.8歳)、いずれの形式の面接でも2点以下だった者が25名(男性20名、女性5名、平均年齢28.0±8.3歳)であった。しかし、実習不合格者42名では、いずれの形式の面接でも3点以上だった者が11名(男性9名、女性2名、平均年齢22.5±5.0歳)と少なく、口頭試問のみ2点以下だった者が4名(男性2名、女性2名、平均年齢27.8±10.4歳)、集団面接のみ2点以下だった者が12名(男性12名、女性0名、平均年齢27.7±8.5歳)、いずれの形式の面接でも2点以下だった者が15名(男性11名、女性4名、平均年齢29.0±6.7歳)と多かった。【考察】臨床実習では、理学療法士になるために必要な知識や技術は勿論だが、医療従事者や社会人としての姿勢や資質も要求される。本研究により、面接試験で成績不良だった学生には実習不合格者が多いことが示された。このことから、入学試験時の面接試験は、学生の臨床実習における問題点を早期に把握する上で有効な手段だといえる。また入学試験で一般的に行われている口頭試問だけでなく、集団面接を合わせて実施することにより、問題点をより明確に抽出できると考える。今後は学生の問題点を早期に把握するだけでなく、臨床実習を念頭に置き、入学当初からどのような学内教育に取り組んでいくのが有効なのか、検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 入学試験において面接試験を実施して教員が評価することで、学力以外の問題点に対しても、臨床実習に向けてより早期から指導をすることが可能になると考える。
著者
遠藤 正樹 小川 智美 鈴木 正則 太田 恵 森島 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ge0071, 2012

【はじめに、目的】 理学療法養成課程の臨床実習は、理学療法士に必要な基礎的知識と基本的技能を実習指導者の指導・監督の下で実践し、専門職に必要な知識・技術・接遇を習得していく重要な教育の現場である。一方、近年の学生の特性として認められる学力・思考力の低下、ソーシャルスキルやコミュニケーションスキルの未熟さ、打たれ弱さなどは教育上無視できない状況にあり、総合評価で不可がつく学生も少なくない。経験豊富な教員であれば主観的にどのような学生が臨床実習でつまずくのか予測できるが、経験が浅い教員では予測することは難しく、実習前に効果的な対策を打つことができない。そこで、これまでの臨床実習における学生評価を利用して、どのような学生が実習でつまずいているのか予測できれば、早期に対策を打つことができ、学生も教員も臨床実習に備えることが可能になると考える。よって本研究の目的は、臨床実習評価の下位項目と総合評価の関係を明らかにし、学内教育での可能性を検討した。【方法】 対象は平成22年度、平成23年度の昼間部3年生、夜間部4年生とし、臨床実習評価を受けられた146名(男性100名、女性46名)を分析対象とした。臨床実習評価表は下位項目33及び総合評価、自由記載欄から成り、成績の段階付けは両者とも優・良・可・不可の4段階評価である。下位項目における評価内容は、1)専門職としての適性及び態度が10項目、2)理学療法の進め方1.理学療法を施行するための情報収集、検査測定が5項目、2.理学療法の治療計画の立案が4項目、3.理学療法の実施が4項目、4.担当症例に即した基礎知識が7項目、3)症例報告書の作成・提出・発表が3項目で構成されている。解析には成績の欠損が多かった3項目は除外し、30項目を使用した、統計解析は総合評価の合否を従属変数、下位項目を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会設置しておらず、同等の権利を持つ教務委員会の承認を得て実施した。なお、個人を特定するようなデータは含まれていない。【結果】 総合成績合格者137名、不合格者9名であった。多重ロジスティック回帰の結果、有意な関連は認められなかった。【考察】 臨床実習体験者を対象とし、総合評価との関連を調査するために、下位項目を複数投入しロジスティック回帰分析を行った結果、下位項目と総合評価との関連は認められなかった。総合評価で不可がついた学生の下位項目を調べると、不可がついていないにも関わらず不合格がついているケースや、逆のケースもあり、評価の基準があいまいなことが確認できた。また、不合格者の自由記載欄を確認すると、責任感のなさや消極的、受動的、自分にあまいといった評価表にないキーワードが共通してみられる。その背景には学生自身の基礎学力の低さやコミュニケーションスキルの未熟さがあると考えられた。よって総合評価の決めてには学生の実習への取り組む姿勢が基準となっている可能性がある。今後は自由記載欄を詳細に調査し、質的分析や下位評価項目の改訂を含めて検討が必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 入学当初から勉強への取り組み方やコミュニケーションスキル、生活態度等の質的評価を学内で確立し、臨床実習の具体的場面と結び付けて指導していく必要性がある。