- 著者
-
植木 眞琴
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- vol.45, pp.S16-3, 2018
<p> ロシアは地元開催のソチ冬季五輪で組織的ドーピング不正を行ったとして,リオ夏季五輪および先の平昌冬季五輪には国としての大会参加が認められず,ロシア国外に活動拠点を置きドーピングを行っていないことを第三国による検査で立証された選手の個人としての参加のみが認められた。不正行為の立証は検査記録の調査,内部告発者の証言のほか,過去の大会で採取され保管されていた試料の高感度法による再検査によって行われ,再検査で陽性となった選手には資格停止,永久追放などの厳しい追加処分が課された。</p><p> 世界アンチドーピング機構(WADA)の独立調査団の報告いわゆるマクラーレンレポートによれば,判明した組織的不正の主なものは,選手を管理する国内スポーツ団体,検査システムに熟知した国内アンチ・ドーピング機構(RUSADA),モスクワの公認機関検査機関責任者らによる,検査で検出されにくいステロイドカクテルの選手への提供,非公式検査による薬物痕跡消失の確認,自国選手の陽性尿すり替えによる薬物使用の隠蔽で,それらの不正はドーピングを強要され報酬の提供を要求された選手によるドイツマスコミARDへの内部告発によって発覚した。その時点で検査システムは不正防止に十分配慮して設計され,ソチ五輪期間中も外部科学者の監視の下に検査が行われたが,監視員が退出した後に別室で被験検体のすり替えが行われることまでは想定していなかったのである。</p><p></p><p>東京五輪へ向けた再発防止策として,</p><p>1.検査開封時まで試料の入れ替えを不可能とする,より確実な封印容器の開発</p><p>2.再検証を可能とする被験検体および公式記録書の10年間保管(現状規則による)</p><p>3.薬物使用を使用停止後も長期間検出でき,法的な取り扱いに対応できる検査方法の開発</p><p>4.新規禁止物質分類検査法の拡充</p><p>5.複数の外部専門家による検体採取から検査結果報告,処罰決定の全プロセスの監視</p><p>6.不正通告のための内部告発の制度化</p><p>7.ドーピング防止のための教育啓発</p><p>などが実施され,または予定されている。</p><p></p><p>発表では上記のうち,おもにドーピング分析の科学的内容について言及する。</p>