著者
林 雄二 植村 元一
出版者
大阪市立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

生物間相互作用物貭の研究は最近数多く行われており,植物・動物間の相互作用のうち,植物成分と昆虫の間では極めて興味深い作用物貭が種々報告されて来た。しかし,更に高等な草食哺乳動物と植物成分との相互作用に関与する物貭が見出された報告は殆んど見当らない。私達は奈良公園で鹿が食べない植物の代表として知られるナギとイワヒメワラビの成分をこれまでに検索し,興味ある新しい化合物を見出して来たが,これらが鹿の摂食忌避と結びつく知見を見出せずにいた。そこで,小形の草食動物としてモルモットを用い,定性的な摂食忌避試験を指標としてナギの葉の成分をしらべた。酢酸エチル可溶部に忌避活性がある事が判ったので分画を繰返し,最終的にはアセチル化後,三種の化合物をアセタ-トとして單離,構造決定し,これらがナギラクトンC,ナギラクトンA,1ーデオキシー2,3ーエポキシナギラクトンAの各々のアセタ-トである事を知った。これらの化合物のもとのアルコ-ル体は,これ迄にナギから得た既知化合物であるので,標品を用いて作用を調べたところ,忌避活性を示すことが明らかになった。ナギ葉の抽出物に対するモルモットの摂食忌避は致命的なものであり,粗抽出物を添加した人工飼料だけで飼育すると,摂食量ゼロのまゝ体重は減少し続け,約三週間後に餓死する。これはナギラクトン類の忌避が,單純な動物の嗜好等に基づくものではなく強い毒性によるものと推定される。今までに知られているナギラクトン類の生物活性,たとえば,昆虫の幼虫や白アリに対する毒性,がん細胞に対する細胞毒性などが高等動物に対しても作用をもつ事を示している。現在,他の鹿に対して摂食忌避性をもつ植物の活性成分の探索と,より定量的な信頼のおける結果を与える生物試験法の開発を検討中である。