著者
椙本 総子 Fusako SUGIMOTO 大阪外国語大学大学院言語社会研究科 Graduate School of Integrated Studies in Language and Society OsakaUniversity of Foreign Studies
出版者
国際交流基金日本語国際センタ-
雑誌
世界の日本語教育 (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
no.10, pp.221-239, 2000

本稿の目的は、組織の中で上下関係のある会話者と対等な立場の会話者の会話を比較し、どのような会話の連鎖構造や言語形式で会話を行なうことが会話者の上下・対等関係を示すことに関わるのかを解明することである。本稿では、特に課題解決を導き出すことを目的とする会話を分析の対象にした。 分析から、課題解決の会話の連鎖構造には、指示タイプの命令型と指示仰ぎ型、提案タイプの強制型と自発型の四種があることが明らかになった。さらに、自発型には提案提供要求、提案提供、提案の判定要求、提案の協働作成の四つの方法が観察された。 命令型と強制型が多く、連鎖構造の中で誰がどの位置でどの発話を行なうかが固定したタイプの会話は、上下関係が明確に実践さている会話である。同様に、提案が自由に行える自発型が多くても提案発話を行なう会話者が固定されていたり、提案の決定に関する力をもつ会話者ともたない会話者がわかれている場合も上下関係が実践されている会話だといえる。それに対して、対等関係が実践されている会話はデータでは、自発型の提案の判定要求や協働作成の方法が頻繁に見られた。そこでは、一人の会話者による明示的な提案の提示が避けられ、皆で提案が作り上げられており、それによって会話者は対等な関係であることを示しているのである。これまで、人間関係に応じた会話の方法は、待遇に関わりのある文末表現や語彙の選択によって特徴づけられると論じられてきたが、どのような会話の流れで会話を行なうかも重要であることを本稿では明らかにした。