著者
原山 茉優 永井 宏達 大川 夏実 佐野 恭子 楠 博 玉城 香代子 和田 陽介 辻 翔太郎 新村 健
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.483-490, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
30

目的:地域在住高齢者における身体活動量とアパシーの関連を明らかにすることである.方法:本研究は地域在住高齢者を対象とした横断研究である.アパシーの評価には日本語版Geriatric Depression Scale15の下位項目のうち,アパシーに関する項目である3項目を用いた.身体活動量はリストバンド型身体活動量計を用いて,2週間あたりの中強度以上身体活動量,低強度身体活動量,座位行動を測定した.統計分析として,アパシーの有無と各強度別身体活動量の関連について,ロジスティック回帰分析を用いて検討した.結果:784名(平均年齢72.7±5.9歳)が解析対象となった.対象者のうち,アパシー群は103名(13.1%),非アパシー群は681名(86.9%)であった.多変量解析の結果,基本属性により調整したモデルでは,総身体活動量(OR=0.947,95% CI=0.912~0.984,p=0.005),低強度身体活動量(OR=0.941,95% CI=0.899~0.985,p=0.009),座位行動(OR=1.002,95% CI=1.001~1.003,p=0.007)がアパシーの有無に有意に関連していた.一方,中強度以上身体活動量はアパシーとの有意な関連が認められなかった(OR=0.916,95% CI=1.826~1.017,p=0.100).機能的な因子による調整を加えた最終モデルでは,身体活動量のすべての強度レベルにおいてアパシーとの有意な関連性はみられなくなり,うつ症状を表すGDS-12とアパシーとの強い関連が示された.結論:アパシーを呈する高齢者では,総身体活動量,低強度身体活動量が低下しており,座位行動が延長していた.しかしながら,それらはうつ症状の影響を強く受けており,身体活動量とアパシーの独立した関係は認められなかった.
著者
楠 博 新村 健
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.107-114, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
41

フレイルは高齢者において全身の生理的予備能が様々な要因により低下することで,ストレスに対する脆弱性が増加し,要介護状態におちいりやすい状態と定義されている.心不全患者では主に心拍出量の低下による筋肉量,筋力の低下から身体的フレイルの構成要素であるサルコぺニアを来たしやすいことが報告され,心不全とフレイルとの相互作用が注目されてきている.一方で,共通の病態生理学的基盤のもと認知機能低下と身体的フレイルが同時に発症する病態として,コグニティブ・フレイルという概念が提唱されている.心不全,フレイル,認知機能障害はそれぞれ独立した病態に見えるが,低栄養,炎症,神経内分泌異常などの共通した基盤の上に成り立っており,相互に影響しあいながら悪循環を形成している.その悪循環を断ち切るためには,まだ可逆的と考えられるプレフレイルや軽度認知機能障害(MCI)の段階で適切な介入をするべきである.介入方法としては心不全に対する薬剤治療のほかに,運動療法,栄養療法がフレイル,認知機能障害に対して有効であることが明らかになってきた.高齢の心不全は時に根治が望めない進行性かつ致死性の病態であるため,終末期医療を視野に入れた意思決定の支援を行う必要がある.超高齢心不全患者がさらに増加していくことが予想されるなか,プレフレイルやMCIの段階で早期に発見し,心不全に対する薬物治療の他に,適切な運動療法,栄養療法を行い,身体機能,認知機能の維持を目指すことは意義が大きい.ADLレベルの維持・向上に努めるために医療職だけでなく多職種の協力体制を構築した全人的かつ包括的な医療の提供が求められている.