著者
吉永 敏子 福田 信二 伊達 敏明 高橋 徹郎 松田 泰雄 三浦 俊郎 矢野 雅文 山川 克敏 楠川 禮造
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.981-986, 1989-08-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
11

58歳,男性.健康診断にて心拡大,不整脈を指摘され,当科に入院した.胸部X線写真にて心胸郭比は57.7%と拡大を認めた.入院時心拍数は61/分,体表面心電図で明らかなf波およびF波は認められなかった.食道内心電図では心房粗動を認めた.右房内マッピングにより右房高位後壁に電気的活動を認めず,左房は心房粗動を示したが,右房では部分的心房収縮停止が存在すると診断した,右室心内膜生検組織標本にて心筋細胞の変性,肥大,小円形細胞浸潤,脂肪浸潤,小血管新生,小動脈壁肥厚を認め,心筋炎後心筋症と診断した.免疫学的検査で,Tγ細胞,OKT8+T細胞の減少,OKT4/OKT8比の上昇,Clq法による免疫複合体の上昇を認めた.免疫複合体の上昇は,その後の検査においても認められ,持続的な免疫応答の存在が考えられ,心筋障害の進展に免疫学的機序が関与している可能性が示唆された.本例ではさらに三尖弁閉鎖不全,左B6および右B9に円形無気肺を認めた.本例は免疫異常,慢性心筋炎および拡張型心筋症との関連を直接的に支持する例と考えられ,拡張型心筋症の病因への免疫学的機序の関与を明らかにするうえに興味ある例と考えられた.