著者
榑沼 範久
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

京都学派の著名な哲学者である下村寅太郎(1902-1995)は、1973年の定年退職後も著述活動とは別に、自身の研究談話会「プリムツァール会」で広大な思索をテープに残していた。「真の著作遍歴は著作以外にあるとすらいえる」、「テープの存するかぎり潜在的著作と称してもよいであろう」とは下村自身の言である。だが、『下村寅太郎著作集』(1988-1999)の完結から20年以上が過ぎた現在でも、この「潜在的著作」は公刊されていない。入手可能で可聴状態にあるテープを文字化し、選択・編集・校閲を経て刊行を目指す本研究は、下村の未知の側面の発見にとどまらず、思想史研究にとって重要な学術資料の集成になるだろう。
著者
大里 俊晴 木下 長宏 BERNDT Jaqueline 榑沼 範久 大里 俊晴
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1 大里俊晴 全ての抑圧に抗して -コレット・マニーその生涯と芸術-フランスの女性作詞家-作曲家-歌手である、コレット・マニー(1926-1997)の作品を、年代を追って分祈することで、その特異性、重要性を浮き彫りにする。彼女は、キューバ革命、ベトナム戦争、パリの5月革命、チリ・クーデターなど、世界的な政治的抑圧に対して鋭く反応し、左翼的意見を表明した歌詞と、前衛的手法を大胆に導入した音楽で、抵抗の声を上げた。2 ジャクリーヌ・ベルント 大戦下の美術-芸術論への挑発 2006年のアルノ・ブレーカー展覧会を中心に-2006年にドイツで開催されたアルノ・ブレーカー(1900-1901)の回顧展やその人気を例に、1940年前後ファシズム系国策下で生み出された芸術をめぐる言説を追究する。その美術を「真正」や「自律」から問うよりも、鑑賞者が抱く期待の地平に加え作品の流通やそこでのメディアの役割といった関係性に焦点を当てる方が今日的芸術論に相応しいことを示す。具体的には、ブレーカー作品の「古典美」や、それを活かす広告写真に近い撮影を考察する。3 榑沼範久 快感原則の彼岸 -感覚/知覚の戦場-主として、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソン(James J.Gibson)が第二次世界大戦期に陸軍航空軍(U.S.Army Air Force)で行っていた知覚研究・映画研究を、第一次世界大戦と第二次世界大戦における人間の感覚/知覚の歴史のなかに位置づける。この作業から抽出されるのは、二十世紀の二つの世界戦争があらわにした二つの「快感原則の彼岸」である。そして、この「快感原則の彼岸」に幾つかの芸術・芸術論も吸引されていくのを見るだろう。