著者
竹内 真人 笠井 あすか 横塚 由美
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.111-124, 2018-07-31

東京検疫所では、2015年より小笠原父島二見港において、港湾衛生現地調査として、ねずみ族及び蚊族の生息状況調査と検疫感染症の病原体検査を実施している。2017年はベクターサーベイランスの一環として、父島の山林部を含む広域及び母島沖港においても蚊族調査を実施した。ねずみ族については、本土よりも高いクマネズミの捕獲率が示されており、自治体による駆除活動が行われているにも関わらず、捕獲率の低下の傾向は2015年からの3年間においてはみられなかった。捕獲されたクマネズミの病原体検査は陰性であったが、うち1頭で寄生虫の猫条虫が検出された。捕集蚊における病原体検査でも、検疫感染症の病原体は全て陰性であった。父島の港湾区域では、アカイエカ群とヒトスジシマカの幼虫が多くの調査区で確認され、父島山林部においても多くのヒトスジシマカの成虫が捕集された。母島で捕獲された蚊族では、ヒトスジシマカの成虫と幼虫が高い割合を占めていた。これらのことから、ヒトスジシマカが父島と母島で優先種として生息していることが明らかになった。また、母島の蚊族の複数種でヒトへの吸血が確認されたことは、蚊が媒介する感染症の拡散の可能性を示唆する。