著者
安西 航 髙橋 洋生 戸田 光彦 遠藤 秀紀
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.45-52, 2017-05-31

小笠原諸島では、固有昆虫を保護するべく、粘着トラップを主としたグリーンアノールの駆除事業が進んでいる。しかし小笠原に生息する集団の基本的な生態はあまり調べられておらず、捕獲の効率化の検討に資する生態学的知見は少ない。本研究では、グリーンアノールの利用する止まり木に着目し、父島と母島の集団間あるいは雌雄間で、利用する微小環境を定量的に比較した。その結果、両島ともに雌雄差がみられ、雌の方が細い枝や根が混み合った微小環境を利用していることがわかった。このことから、効率的に雌を捕獲するには、樹幹や太い枝だけではなく、雌が好むような微小環境にもトラップを設置することが有効と考えられる。
著者
上條 明弘
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.34, pp.31-58, 2011-05-31

太平洋戦争中の父島は南方戦線への物資輸送の中継点であった。1944(昭和44)年6月にアメリカ軍のサイパン攻略が始まると、硫黄島の防衛力増強が必要となった。そこで、日本軍は父島を経由して物資を硫黄島に届けるべく、船団を組織した。しかし、多くの艦船が潜水艦、艦載機により攻撃を受け、沈没・損傷した。1944年8月4日、駆逐艦「松」を旗艦とする第四八〇四船団は、アメリカ海軍任務58機動部隊の艦載機の攻撃、および任務58.1.6機動部隊の巡洋艦・駆逐艦の砲撃をうけた。この攻撃はレーダーと連携した砲撃の実験であることが示唆された。
著者
川口 大朗 向 哲嗣 宮川 五葉
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.39, pp.69-72, 2016-05-31

小笠原諸島固有のラン科植物シマツレサギソウは、父島列島(父島、兄島、弟島)と母島列島(母島、向島)に分布している。母島列島では近年減少傾向が見られ、列島全体で20~30 個体しか確認できていない。今回の調査により、食害による更新阻害の可能性が示唆され、保全対策が必要な状況が確認された。
著者
濵邉 昂平
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.59-72, 2017-05-31

本調査は小笠原諸島父島におけるヨコエビ類相の把握を目的に行った。調査は2015年7月から8月、2016年7月から8月、2016年12月から2017年1月にかけて、父島の各海岸および内陸(陸水域を含む)において行った。調査の結果、父島から4科8種のヨコエビ類の生息が確認された。ハマトビムシ科では4種が確認され、海岸型のPlatorchestia pacifica とP. sp.、内陸型のニホンオカトビムシP. japonica、そして海岸型と内陸型の中間型として、固有種であるオガサワラホソハマトビムシPyatakovestia boninensis が確認された。このうち、オガサワラホソハマトビムシは父島において初めての確認となった。
著者
大澤 剛士 畑 憲治 可知 直毅
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.13-23, 2016

導入種が同一の生態系内に共存している場合、一方の根絶が予期せぬ波及効果をもたらす場合がある。聟島列島媒島は、ヤギの根絶後、外来低木であるギンネムLeucaena leucocephala(Fabaceae)が急速に分布域を広げている。本研究は、ヤギの根絶に伴ってギンネムが勢力を拡大したという仮説を、航空写真判読および現地調査によって検証した。 その結果、ヤギ駆除後、島の土地被覆は裸地から草地に、続いてギンネム林に変化していったことが示唆された。このことから、ヤギはギンネムの繁茂を抑制していたこと、現在ギンネム林に近接している草地は、将来的にギンネム林に変化してしまう危険性が高いことが示された。
著者
大林 隆司
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-39, 2015-05-31

純然たる海洋島である小笠原諸島の聟島列島、父島列島そして母島列島に分布する唯一のセミ、オガサワラゼミは固有種であるとされ、国の天然記念物に指定されている。しかし本種は、南西諸島に分布する同属の別種クロイワツクツクと形態的にも生態的(鳴き声など)にも極めて近く、そのため本種は明治時代以降に小笠原諸島が日本領になってから、南西諸島からの植物と共に移入された可能性が指摘されてきた。しかし、江戸時代末期に幕府が小笠原回収事業のために派遣し、文久二年から三年(1862年~1863年)に父島に滞在した本草学者、阿部櫟斎が書き残した日記(紀行文)、『豆嶼行記』ならびに『南嶼行記』の数か所に「蟬」の記述があることから、明治時代以前の江戸時代に父島にセミが分布し、その記述(形態、鳴き声、発生時期:秋)からも現在のオガサワラゼミの可能性が高いと考えられた。また、明治初期の明治16年(1883年)に曲直瀬愛が編纂した『小笠原島物産誌略』にも「蟬」の記述があり、このことを裏付けるものと考えられた。さらに、阿部櫟斎の父島滞在と前後して小笠原諸島(父島、兄島)を訪れたジョン万次郎も、「蟬」の声を聴いていた可能性があると推察した。
著者
上條 明弘
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.34, pp.31-58, 2010

太平洋戦争中の父島は南方戦線への物資輸送の中継点であった。1944(昭和44)年6月にアメリカ軍のサイパン攻略が始まると、硫黄島の防衛力増強が必要となった。そこで、日本軍は父島を経由して物資を硫黄島に届けるべく、船団を組織した。しかし、多くの艦船が潜水艦、艦載機により攻撃を受け、沈没・損傷した。1944年8月4日、駆逐艦「松」を旗艦とする第四八〇四船団は、アメリカ海軍任務58機動部隊の艦載機の攻撃、および任務58.1.6機動部隊の巡洋艦・駆逐艦の砲撃をうけた。この攻撃はレーダーと連携した砲撃の実験であることが示唆された。
著者
真崎 翔
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.40, pp.11-46, 2013

小笠原諸島は、太平洋戦争末期の硫黄島の戦いの末に陥落して以降、1968 年まで米国による軍事占領下におかれた。戦後日米関係史において、国務省と軍部の対日政策は、その対立点よりも、むしろ一致点に焦点が当てられてきた。しかしながら、国務省と軍部は、対小笠原政策においては、対立していたかのようであった。国務省は、良好で安定した日米関係を構築する必要性から、小笠原の信託統治化に反対し、その早期返還を求めた。一方で、軍部は、不安定化しつつある極東情勢を懸念し、米国の安全保障戦略上の要請から、小笠原を恒久的に軍事占領する必要性を訴えた。最終的に、国務省が主張する小笠原返還が、1967 年11 月の日米首脳会談において合意された。それは、自国の軍事的利益よりも、日米の友好関係から得られる利益を優先した決断のようであった。 小笠原諸島には、米国の安全保障戦略上、重要な基地がおかれていた。加えて、硫黄島の戦いにおける激戦から、多くの米国民にとって象徴的意味をもつ。国務省は、軍部や米国民に小笠原返還を納得させるために、返還によって安全保障上の既得権を保持する必要があった。また、米国民の小笠原に対する特別な感情にも配慮しなくてはいけなかった。さらに、ベトナム戦争や沖縄占領に起因する日米の緊張関係を緩和することも急務であった。本論は、これらの難しい課題に対する国務省の解決策が、核「密約」であったということを論証する。そして、国務省と軍部の小笠原の占領と返還をめぐる対立が表面的なものであり、むしろ根本的には双方の意図が一致していたということを証明する。Following the historic U.S. victory of the Battle of Iwo Jima, during the last phase of the Pacific War, the Bonin (Ogasawara) Islands came under U.S. military control and remained occupation until 1968. In the history of U.S.-Japan relations, the primary focus regarding Japanese policy has been cooperation—rather than confrontation—between the Department of State and the military. However, these two parties seemed to be in conflict over the Bonin policy. For the sake of maintaining a satisfactory and stable relationship with Japan, the former opposed putting the islands under U.S. trust territory and advocated early reversion. The latter, concerned with the unstable situation developing in the Far East, perceived the necessity for permanent occupation of the islands from a security standpoint. During the U.S.-Japan summit meeting in November 1967, return of the islands was agreed upon, supported by the State Department. This decision indicated that the U.S. considered interests obtained from a desirable relationship with Japan more important than military interests.The Bonin Islands had important military bases in the U.S. security strategy. In addition, Iwo Jima held a symbolic meaning for many American citizens since the fierce battle fought over it. In order to convince the military to return the islands, the State Department needed to maintain America's vested rights even after the reversion. Moreover, it had to take Americans' special feelings for the islands into consideration, and attempt to ease the tension of U.S.-Japan relations, which originated in the Vietnam War and occupation of Okinawa. Was there any magical tool that could solve these difficult problems altogether? The answer this paper gives is a nuclear "secret agreement." This paper will demonstrate that the confrontation between the State Department and the military over the occupation and reversion of the Bonins was superficial, and that the intention of the two parties was fundamentally correlated.
著者
保坂 健太郎
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.44, pp.137-144, 2018-07

南硫黄島から2017年に採集されたきのこ類についてリスト化するともに子実体写真で紹介する。合計12標本(2門2綱4目9科11属11種)が採集され、全て腐生菌もしくは木材腐朽菌であった。多くは南硫黄島に自然分布する種であると思われる。
著者
川上 和人 益子 美由希
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.31, pp.41-48, 2008-03

小笠原諸島では、無人島を含めたいくつかの島でネコが野生化している。一般に海洋島の動物は、捕食性哺乳類が不在の環境で進化してきているため、移入捕食者により個体群が大きな影響を受けることが少なくない。そこで、小笠原諸島においてネコが在来生態系に与える影響を評価する基礎資料とするため、母島において野外で採集したネコの糞分析を行った。その結果、ネズミ類が食物の大きな割合を占めているが、海鳥の繁殖地周辺では同頻度で海鳥を捕食していることが明らかになった。また、絶滅危惧IB類であるオガサワラカワラヒワを含め、トカゲ類や昆虫類、甲殻類など、多様な動物を採食していることが明らかとなった。母島南部はオガサワラカワラヒワの島内における主要な生息地であり、また海鳥繁殖地もあることから、特にこの地域で野生化したネコを積極的に管理する必要がある。
著者
酒井 享平 山上 博信 上石 圭一
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.36, pp.35-55, 2013-05-10

本研究を行った結果、東京都内における司法過疎問題の実態については、法テラス(日本司法支援センター)、自治体・商工会、法律専門職者・同団体等の努力の結果、司法過疎問題は決定的な破綻は免れているとは言えるが、なお、生存権、法の下の平等、裁判・弁護を受ける権利等の諸権利が最低限満たされている状況には至っておらず、一層の改善を図っていく必要があるとの結論が得られた。
著者
鈴木 惟司
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.30, pp.47-51, 2007-03

オガサワラカラスバトは小笠原諸島産絶滅固有種である。本種は明治時代に至るまで生存していたが、他の絶滅固有鳥類と同様、生態に関する情報はほとんど残されていない。最近行なわれた古文献再調査の結果、本種は小笠原の林に多いオガサワラビロウの実を食していたことが示された。
著者
川上 和人 益子 美由希
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.31, pp.41-48, 2007
被引用文献数
1

小笠原諸島では、無人島を含めたいくつかの島でネコが野生化している。一般に海洋島の動物は、捕食性哺乳類が不在の環境で進化してきているため、移入捕食者により個体群が大きな影響を受けることが少なくない。そこで、小笠原諸島においてネコが在来生態系に与える影響を評価する基礎資料とするため、母島において野外で採集したネコの糞分析を行った。その結果、ネズミ類が食物の大きな割合を占めているが、海鳥の繁殖地周辺では同頻度で海鳥を捕食していることが明らかになった。また、絶滅危惧IB類であるオガサワラカワラヒワを含め、トカゲ類や昆虫類、甲殻類など、多様な動物を採食していることが明らかとなった。母島南部はオガサワラカワラヒワの島内における主要な生息地であり、また海鳥繁殖地もあることから、特にこの地域で野生化したネコを積極的に管理する必要がある。
著者
上條 明弘
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.33, pp.51-85, 2010-05-20

父島洲崎は自然豊かな海岸であったが、日本海軍により埋め立てられ、洲崎飛行場が建設された。小さな飛行場であり、陸上機があまり配備されていなかったので、最初アメリカ軍は重視していなかった。しかし、硫黄島攻防戦では、特別攻撃などの支援作戦の中継基地となり、重要な役割を演じた。そのため、アメリカ軍は、洲崎飛行場に対し、艦上機、陸軍機により集中的な攻撃を与えた。
著者
延島 冬生
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.23-45, 2018-07-31

1980年小笠原諸島父島大渇水期における一水道事業従事者の日記を通し当時の水道管理者と住民の対応をまとめ、今後も起こりうるであろう同様の事態への参考材料とする。
著者
YUMOTO Takakazu
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.37, pp.97-102, 2011

Islands have been blessed by their unique biota, culture, and language, depending on affluent ecosystem services and subsistence economy. Island life was one of the good examples of a sustainable way of life. But globalization destroyed its subsistence economy and made their lives unsustainable. Trans-disciplinary research is needed to restore and reconstruct island lives as well as ecosystems, in order to utilize the rich biodiversity and cultural diversity of islands for green development as ecotourism, sustainable forestry and fishery, and handicrafts. Local knowledge of islands is a treasure box for future sustainable lives with "low environmental loads and high quality of live".
著者
島野 智之 蛭田 眞平 富川 光 布村 昇 寺山 守 平野 幸彦 馬場 友希 西川 勝 鶴崎 展巨 佐藤 英文
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.137-144, 2018-07-31

小笠原諸島のうち、弟島3地点、父島8地点、母島6地点、合計17地点から、192個体あまりの土壌節足動物が得られた。同定の結果37種と判別され、このうち、学名が確定したりあるいは未記載種でも種レベルで同定が行われたりしたものは、26種であった。特筆すべきは、グンバイウデカニムシCheilidium aokii Sato, 1984の2例目の記録、アシジロヒラフシアリTechnomyrmex brunneus Forel, 1895の弟島からの初記録、また、アサヒヒメグモEuryopis perpusilla Ono, 2011も母島初記録であった。外来種であるホソワラジムシPorcellionides pruinosus(Brandt, 1833)は、父島と母島から見いだされた。
著者
鈴木 創 鈴木 直子
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-11, 2015-08

オガサワラオオコウモリPteropus pselaphonは、小笠原諸島に分布する唯一の固有晴乳類である。野外調査と文献調査から、31科42属105種 (91種及び亜種・変種・品種等14区分を含む) の植物と昆虫1種が餌として記録された。利用された植物105種において、固有種は12種 (11.4%)、固有種以外の在来種 (広域分布種) は7種 (6.7%)、外来の自生種は10種 (9.5%)、外来の栽培種は76種 (72.4%) であった。植物の摂食部位は148で、内訳は果実が68種 (45.9%)、花 (花軸含む) が43種 (29.1%)、葉 (葉柄含む) が37種 (25.0%) であった。全体の餌区分において外来の栽培種と外来の自生種を合計した割合が81.9%に及び、現時点の特に父島におけるオガサワラオオコウモリの食性が外来植物に偏っている実態が確認された。一方で、小笠原固有種や広域分布種等の在来の自生種の餌利用も多数確認された。このことから、オガサワラオオコウモリが小笠原の森林生態系において、重要な生態系サービスの提供者 (種子散布者・花粉媒介者) であることが示唆された。
著者
川上 和人 鈴木 創 堀越 和夫 川口 大朗
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.44, pp.217-250, 2018-07

南硫黄島の鳥類相の現状を明らかにするため、2017年6月14日~27日の期間に現地で調査を行った。その結果、過去に繁殖が確認されていた各種鳥類の生息が確認され、いずれの種についても特に大きな個体数の変動はないものと考えられた。ただし、コルと山頂の間では過去10年で高茎草本を中心とした密度の高いブッシュが発達しており、このような場所ではミズナギドリ科、ウミツバメ科の営巣が減少していた。セグロミズナギドリ Puffinus bannermaniは2007年の調査では山頂付近でのみ確認されていたが、今回の調査から標高300mの崩落地内の岩石地でも営巣していると考えられた。山頂周辺ではオーストンウミツバメ Oceanodroma tristramiの巣立ち前後の雛や成鳥が見つかり、南硫黄島における初めての繁殖の証拠となった。海鳥の営巣は、海岸部では植生が沿岸部に認められる場所において、山上部では森林が発達した場所で密度が高い傾向があった。UAVによる調査で南部の海岸に面した崖上ではアカアシカツオドリ Sula sulaの集団繁殖地が国内で初めて確認された。同じくUAVによる調査で北部の崖上のモクビャクコウ Crossostephium chinense群落において地上に下りている複数のクロアジサシ Anous stolidusが確認された。ここでは証拠は得られなかったものの営巣している可能性があると考えられた。アナドリ Bulweria bulwerii、カツオドリ Sula leucogaster、アカオネッタイチョウ Phaethon rubricaudaでは、羽毛にシンクリノイガ Cenchrus echinatus及びナハカノコソウ Boerhavia diffusaの果実を付着させた個体が見られ、これらの海鳥が種子散布者となっていることが示唆された。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。