著者
横山 直行 白井 良夫 宗岡 克樹 若井 俊文 畠山 勝義
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.486-491, 2006-04-01
被引用文献数
3

症例は74歳の女性.十二指腸乳頭部癌切除後,最大径8cmまでの多発肝転移巣が出現.TS-1を150mg/日(15時に50mg, 22時に100mg内服)隔日で投与した.TS-1投与日の血清5-FU濃度は夜間高く,午前3時に最高値(539ng/ml)を示し,本療法が時間治療であることを確認した.治療開始後転移巣は徐々に縮小・減少し,4か月後には肝前区域に径2.5cm大の単個を残すのみとなった.骨髄抑制や消化器系の副作用はなく,外来での加療が可能であった.治療開始151日目に多量の吐血を来たし,出血性ショックで同日死亡した.病理解剖の結果,死因は肝前区域の残存腫瘍の退縮により,同腫瘍内を貫通する肝動脈が破綻したための胆道出血と診断された.本症例の経験から,TS-1を用いた時間療法が十二指腸乳頭部癌に対し有効である可能性が示唆された.一方,化学療法著効例では腫瘍壊死に伴う動脈性出血にも留意すべきである.