著者
横田 祐季
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.247, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ はじめに近年アニメ聖地巡礼が盛んであり,その中で,コラボ終了後の持続可能性は重要な課題とされる(風呂本,2012).作品愛着を超えて地域愛着を持ち地域を何度も訪れるようなファンを獲得することが重要と言えるが,アニメファンの地域愛着については研究が不足している.また近年では聖地に移住するファンの存在も指摘されているが(喜馬ほか,2018),聖地移住についての研究は為されていない.Ⅱ 研究目的と調査概要 本研究では,前述の研究背景を踏まえ,①聖地巡礼を通じたアニメファンの地域愛着の存在とその形成に影響を与える要因,また②そうしたアニメファンが聖地巡礼を契機に聖地への移住へと至るプロセスの二点を明らかにすることを目的とする. 対象地域は『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地静岡県沼津市とした.近年アニメツーリズムの成功事例として注目を集めており,関係者への取材によると,アニメ放送が開始された2016年以降少なくとも50人以上はアニメ聖地巡礼を契機とした移住者がいるという. まず上記①を明らかにすることを目的に,聖地巡礼者にアンケート調査を実施した(Ⅲ).その結果アニメファン166名の有効回答を得た. また②を明らかにすることを目的に聖地移住者にヒアリング調査とアンケート調査を実施した(Ⅳ).ヒアリング調査は10名の移住者に対して行われ,アンケート調査はさらに10名を加えた20名に対して行われた.Ⅲ アニメファンの聖地への地域愛着 地域愛着の分析には,単純な嗜好の程度を表す地域愛着(選好),「そこに住みたい」という地域との結び付きを感じる程度を表す地域愛着(感情),「このような地域であって欲しい」という願いの程度を表す地域愛着(持続願望)の3指標を用いた.また地域愛着の形成に影響を与えると思われる要因として聖地巡礼の内容や地域への意識など様々な質問項目を設定した.分析では相関分析とt検定を用いた. 調査の結果,以下の知見が得られた.まず,アニメファンは聖地に対して一定の地域愛着を持つ(平均:選好4.6,感情3.69,持続願望:3.78/5点満点).また地域愛着(選好)→(感情)→(持続願望)と,より深い次元の地域愛着へと段階的に醸成されること,そして地域愛着の醸成が次回,さらにはコラボ終了後の来訪意欲にも繋がることが示唆された. 地域愛着(選好)は来訪回数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と関連があり,単純に訪問を重ねることでも醸成されると考えられる.また地域住民との交流機会の創出やSNSの活用を意識したイベント展開で醸成を促せると考えられ,来訪意欲との相関も最も高いことから観光振興を図る上で有効な指標といえる. 地域愛着(感情)は滞在日数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と一定の関連があり,地域愛着(選好)と同様の施策展開を行うことである程度醸成を促せると考えられる.また「景色が美しいまち」「人のあたたかいまち」「自然豊かなまち」といったイメージを持つ人は高い値を示す傾向にあり,アニメ作中で描かれるイメージを実際に聖地巡礼でも抱けたことで「居場所がある」といった感情が生まれると考えられる.移住者はこの値が高く,そのために移住に至ったと推察される. 地域愛着(持続願望)は地域愛着(選好・感情)と比べると様々な要素と関連が薄く,来訪意欲との関連も薄い.アニメツーリズムの展開を促す上では有効な指標とはいえないと思われる.Ⅳ 聖地移住のプロセス 聖地巡礼を通じた認知や体験によって地域愛着(選好)→(感情)というように深い次元の地域愛着の醸成に繋がり,これがプル要因となっていた.その際,自然的環境や都市的環境に加え,アニメ聖地巡礼に特有なものとして「地域の人のあたたかさ」「ファンの集う場所」といった社会的環境や「地域に根付いたアニメの存在」が認知され,アニメが媒介となって自らと地域の結び付きを感じる状態になっていた.前環境への不満がプッシュ要因となった場合もあったが,必ずしも移住の決断に際して必要な条件ではなかった.また移住者・移住希望者交流会の定期開催が近年の移住者数の増加に寄与しており,そこでもアニメを通じたコミュニティの形成が参加への障壁を下げ情報交換を促し移住の決断を後押ししていたと考えられる.謝辞:調査にご協力頂いたアニメファンの皆様,沼津市の方々に心より感謝いたします.参考文献風呂本武典 2012. 過疎地域におけるアニメ系コンテンツツーリズムの構造と課題—アニメ「たまゆら」と竹原市を事例に.広島商船高等専門学校紀要 34:101-119.喜馬佳也乃・坂本優紀・川添 航・佐藤壮太・松井圭介 2018. リピーターの観光行動からみたアニメツーリズムの持続性—茨城県大洗町「ガールズ&パンツァー」を事例として.筑波大学人文地理学研究 38:13-43.
著者
横田 祐季
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>Ⅰ はじめに</p><p>近年アニメ聖地巡礼が盛んであり,その中で,コラボ終了後の持続可能性は重要な課題とされる(風呂本,2012).作品愛着を超えて地域愛着を持ち地域を何度も訪れるようなファンを獲得することが重要と言えるが,アニメファンの地域愛着については研究が不足している.また近年では聖地に移住するファンの存在も指摘されているが(喜馬ほか,2018),聖地移住についての研究は為されていない.</p><p></p><p>Ⅱ 研究目的と調査概要</p><p> 本研究では,前述の研究背景を踏まえ,①聖地巡礼を通じたアニメファンの地域愛着の存在とその形成に影響を与える要因,また②そうしたアニメファンが聖地巡礼を契機に聖地への移住へと至るプロセスの二点を明らかにすることを目的とする.</p><p> 対象地域は『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地静岡県沼津市とした.近年アニメツーリズムの成功事例として注目を集めており,関係者への取材によると,アニメ放送が開始された2016年以降少なくとも50人以上はアニメ聖地巡礼を契機とした移住者がいるという.</p><p> まず上記①を明らかにすることを目的に,聖地巡礼者にアンケート調査を実施した(Ⅲ).その結果アニメファン166名の有効回答を得た.</p><p> また②を明らかにすることを目的に聖地移住者にヒアリング調査とアンケート調査を実施した(Ⅳ).ヒアリング調査は10名の移住者に対して行われ,アンケート調査はさらに10名を加えた20名に対して行われた.</p><p></p><p>Ⅲ アニメファンの聖地への地域愛着</p><p> 地域愛着の分析には,単純な嗜好の程度を表す地域愛着(選好),「そこに住みたい」という地域との結び付きを感じる程度を表す地域愛着(感情),「このような地域であって欲しい」という願いの程度を表す地域愛着(持続願望)の3指標を用いた.また地域愛着の形成に影響を与えると思われる要因として聖地巡礼の内容や地域への意識など様々な質問項目を設定した.分析では相関分析とt検定を用いた.</p><p> 調査の結果,以下の知見が得られた.まず,アニメファンは聖地に対して一定の地域愛着を持つ(平均:選好4.6,感情3.69,持続願望:3.78/5点満点).また地域愛着(選好)→(感情)→(持続願望)と,より深い次元の地域愛着へと段階的に醸成されること,そして地域愛着の醸成が次回,さらにはコラボ終了後の来訪意欲にも繋がることが示唆された.</p><p> 地域愛着(選好)は来訪回数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と関連があり,単純に訪問を重ねることでも醸成されると考えられる.また地域住民との交流機会の創出やSNSの活用を意識したイベント展開で醸成を促せると考えられ,来訪意欲との相関も最も高いことから観光振興を図る上で有効な指標といえる.</p><p> 地域愛着(感情)は滞在日数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と一定の関連があり,地域愛着(選好)と同様の施策展開を行うことである程度醸成を促せると考えられる.また「景色が美しいまち」「人のあたたかいまち」「自然豊かなまち」といったイメージを持つ人は高い値を示す傾向にあり,アニメ作中で描かれるイメージを実際に聖地巡礼でも抱けたことで「居場所がある」といった感情が生まれると考えられる.移住者はこの値が高く,そのために移住に至ったと推察される.</p><p> 地域愛着(持続願望)は地域愛着(選好・感情)と比べると様々な要素と関連が薄く,来訪意欲との関連も薄い.アニメツーリズムの展開を促す上では有効な指標とはいえないと思われる.</p><p></p><p>Ⅳ 聖地移住のプロセス</p><p> 聖地巡礼を通じた認知や体験によって地域愛着(選好)→(感情)というように深い次元の地域愛着の醸成に繋がり,これがプル要因となっていた.その際,自然的環境や都市的環境に加え,アニメ聖地巡礼に特有なものとして「地域の人のあたたかさ」「ファンの集う場所」といった社会的環境や「地域に根付いたアニメの存在」が認知され,アニメが媒介となって自らと地域の結び付きを感じる状態になっていた.前環境への不満がプッシュ要因となった場合もあったが,必ずしも移住の決断に際して必要な条件ではなかった.また移住者・移住希望者交流会の定期開催が近年の移住者数の増加に寄与しており,そこでもアニメを通じたコミュニティの形成が参加への障壁を下げ情報交換を促し移住の決断を後押ししていたと考えられる.</p><p>謝辞:調査にご協力頂いたアニメファンの皆様,沼津市の方々に心より感謝いたします.</p><p></p><p>参考文献</p><p>風呂本武典 2012. 過疎地域におけるアニメ系コンテンツツーリズムの構造と課題—アニメ「たまゆら」と竹原市を事例に.広島商船高等専門学校紀要 34:101-119.</p><p>喜馬佳也乃・坂本優紀・川添 航・佐藤壮太・松井圭介 2018. リピーターの観光行動からみたアニメツーリズムの持続性—茨城県大洗町「ガールズ&パンツァー」を事例として.筑波大学人文地理学研究 38:13-43.</p>