- 著者
-
樺島 博志
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
前年度,ミュールハイム=ケアリッヒ事件の憲法判例を取り上げ,原発設置許可手続における市民の手続的参加権の保障が基本権保護義務の内容となりうることを明らかにした。本年度は,前年度の研究成果を公表し,さらに計画に従って考察を進めた。まず,憲法判例の前置手続として提起された行政裁判を検討した。この事件は,行政行為の執行差止の仮処分をもとめて争われたものであり,迅速手続であったからこそ,憲法訴願においては手続的参加権が主として争われ,実態的基本権侵害の存否について正面から判断は下されなかったものと考えられる。この行政裁判所の判決を検討したあとで,当憲法判例以降に係属したミュールハイム=ケアリッヒ原発関連の行政裁判に考察を進めた。同原発の設置に関する許可処分に対しては,複数の訴訟が提起され,下級審では,許可処分を適法と認めるものと,無効とするものとに,判断が分かれた。最終的には,連邦行政裁判所で無効が確定した。いずれの判断も,裁判所による原発設置の技術的評価にかかわっており,行政裁判において行政庁の判断を裁判所はどの程度尊重すべきか,逆に裁判所はどこまで技術的判断を下すことができるのか,という観点から判例を検討した。ドイツにおける実地調査は,本務との関係で当初の計画ほど十分に出来なかったが,年度末に近い二月に実施し,同事件に実際にたずさわったコブレンツ行政裁判所のルッツ判事にインタヴューを行うことが出来,ミュールハイム=ケアリッヒ原発問題について,事件の争点と全体状況に関して有益な知見を得ることができた。ドイツでの実地調査が遅れたこと,計画期間中に二度の転勤が重なったことから,最終的な研究報告をまとめるにはいたっていないが,判例の翻訳等,逐次Web上で公開する予定である(URL:http://www/law.tohoku.ac.jp/~kabashima/)。