著者
樺島 榮一郎
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.5-16, 2007-09

本論文は,放送用番組の二次利用,特にインターネット配信の著作権許諸問題を論じる。多くの場合,放送番組の権利者は放送事業者だが,番組で使われた脚本や音楽,実演等は,それぞれ著作権者が権利を持ちつづける。放送事業者が放送用に番組を製作する場合は,これらクラシカル・オーサーの権利の制限という優遇措置と,著作権等管理事業者との年間包括契約により,逐一許諾は必要ない。番組を放送以外で二次利用する場合,改めて各権利者の許諾が必要となるが,製作時に交渉を行っておらず,使用料規定もなく,著作物特定,権利者捜索,個別交渉が必要になる。これが,番組の二次利用を妨げる原因である。放送事業者優遇の法理を考察すると,業務実態反映論は,番組制作会社等,放送事業者以外も番組制作が可能であることから,成立しない。公共的役割論も,ユニバーサルサービスの費用を権利処理費用の低減で賄うという,論理が成立しえない。新しい法理は,多様なメディアで放送用著作物を利用しやすくすること,すなわち著作物のユビキタス化が適切である。そのために,裁定制度の努力義務を,著作権等管理事業者のデータベースの検索のみにし,補償金も著作権等管理事業者に委託している権利者の受取額と同額とする。これにより,集中管理へのインセンティブが働くと同時に,利用者は,アウトサイダーの権利も集中管理委託の権利と同等に扱うことができる。