著者
鳥居 吉治
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
no.10, pp.59-73, 1998
被引用文献数
1

ケーブルテレビは、1980年代から地域情報化を促進するメディアとして期待されてきた。現在ケーブルテレビ事業者は通信など高度なサービスも行えるネットワークを有しており、多彩なサービスを行うことを期待されているが、産業は未成熟であり個々の事業者の力も現段階では弱いのが実状である。一方、1990年代前半まで、変革的な環境の変化はなくケーブルテレビと競合する他の業界はなかったが、過去数年間の規制緩和、技術革新、グローバル化の結果、ケーブルテレビを取り巻く環境が変化し、ケーブルテレビ事業者、通信事業者及びデジタル衛星放送事業者の間での競争が出現しつつある。筆者は、ケーブルテレビがマルチメディア社会の実現に貢献すると期待するもののひとりであるが、この論文においては、以上のようなケーブルテレビ事業者の現状と、通信事業者およびデジタル衛星放送事業者の問の競争の背景と状況を分析的に把握した上で、今後のケーブルテレビ事業の運営に関して三つの課題を導いた。第一はマーケッティングにおける4Pの要素の改善、第二は技術力の向上、第三に地域の情報提供能力の維持開発である。特に、地域社会における地域情報化の重要性とケーブルテレビのもつメディアの特性を考えると、第三の点が最も重要であるとの結論を得た。
著者
藤原 正弘 木村 忠正
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.43-55, 2009-03

インターネットなど情報ネットワークの社会的普及と日常生活への浸透に伴い,ネットワーク利用と一般的信頼感との関係について,広く関心が寄せられ,これまで研究が行われてきた。しかし,これまでの研究では,一般的信頼感とネットワーク利用行動との明確な関係性が見出されているとは言い難い。そこで本研究では,山岸(1998)の一般的信頼に関する議論が,信頼と安心を対立的にとらえているのに対して,Hofstede(1980,1991)の不確実性回避傾向指数(UAI,Uncertainty Avoidance Index)を安心の尺度と考え,信頼とUAIを相互に独立した次元と仮定し,組み合わせによる類型的枠組とネットワーク行動との関係の研究を試みた。具体的には,低い一般的信頼,高いUAIがインターネット利用を限定的にしているとの仮説とともに,低信頼+高UAI=「没交渉志向」=匿名掲示板利用,のように,信頼とUAIを組み合わせた類型の心理的特性とそれに関連するインターネットサービス利用との関係を仮定し,それぞれ検証を行った。その結果,多くの仮説は支持され,一般的信頼とUAIとを組み合わせることの有効性,とりわけ,UAIがインターネット利用行動の分析に有効であることが示された。
著者
桃塚 薫
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.35-47, 2003-03

今日の組織において,情報技術の利用に積極的態度を持つ人々は,絶えず自己のアイデンティティを変容させながら,自己の正統化を図ることで,自己を取り巻く状況(組織,社会など)を変革しようとする特徴がある。本研究では,3つの鍵となる概念:(1)新技術・新知識の利用に積極的であり,社会の既存のヒエラルキーに対抗的な「オルト・エリート」,(2)自己と他者の関係性を絶えず組替えながら,自己を動的に形成する「アイデンティフィケーション」,(3)自己を他者より卓越させる進行中のメカニズムである「正統化」からなるフレームワークを用いて,伝統的な古書店の協同組合において,オルト・エリートが情報技術を利用しながら組織を変化させていくダイナミズムについて検討した。同組合のオルト・エリートは,情報化の抵抗が強い組織のなかで,情報技術を導入した。その過程で,同組合のオルト・エリートは,組織内部において,また組織内部と外部との間で,自己と他者の関係を動的に組替えていることが観察された。更に,文化的,経済的,マネジメント的側面で,オルト・エリートが自己を正統化していこうとする動きも観察された。これらの動きが合わさって,自己と他者の関係性がダイナミックに変化することで,全体としての組織も変化していくことが確認された。
著者
樺島 榮一郎
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.5-16, 2007-09

本論文は,放送用番組の二次利用,特にインターネット配信の著作権許諸問題を論じる。多くの場合,放送番組の権利者は放送事業者だが,番組で使われた脚本や音楽,実演等は,それぞれ著作権者が権利を持ちつづける。放送事業者が放送用に番組を製作する場合は,これらクラシカル・オーサーの権利の制限という優遇措置と,著作権等管理事業者との年間包括契約により,逐一許諾は必要ない。番組を放送以外で二次利用する場合,改めて各権利者の許諾が必要となるが,製作時に交渉を行っておらず,使用料規定もなく,著作物特定,権利者捜索,個別交渉が必要になる。これが,番組の二次利用を妨げる原因である。放送事業者優遇の法理を考察すると,業務実態反映論は,番組制作会社等,放送事業者以外も番組制作が可能であることから,成立しない。公共的役割論も,ユニバーサルサービスの費用を権利処理費用の低減で賄うという,論理が成立しえない。新しい法理は,多様なメディアで放送用著作物を利用しやすくすること,すなわち著作物のユビキタス化が適切である。そのために,裁定制度の努力義務を,著作権等管理事業者のデータベースの検索のみにし,補償金も著作権等管理事業者に委託している権利者の受取額と同額とする。これにより,集中管理へのインセンティブが働くと同時に,利用者は,アウトサイダーの権利も集中管理委託の権利と同等に扱うことができる。
著者
梅原 英一 太田 敏澄
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.35-49, 2005-09

迷惑施設や原子力施設の継続的な事業運営や設置などに関するリスク情報開示は, 社会現象としても数多く取り上げられている。行政は住民によりリスク情報開示を求められている。しかし、リスク情報開示では, 行政と住民の間には, 情報の非対称性や情報保有度などの情報ギャップが存在する。そこで、本論文ではリスク情報開示を、行政と住民の相互作用と考え、リスク情報開示ゲームとして定式化する。これにより、行政と住民の代替案の得失に関するモデルを構築し、行政のリスク情報開示における代替案の性質を明らかにする。住民の行動は、満足化意思決定理論によるモデル化を行う。これは、住民が満足していれば、問題意識は通常あまり高くないという状況を表現している。行政の行動は、累積プロスペクト理論によるモデル化を行う。これは、行政が非開示というリスク追求行動をとる可能性を表現している。その結果、自発的開示ゲーム、安心ゲーム、情報探索ゲーム、強制開示ゲームの4種類のモデルとなることが分かった。安心ゲームと情報探索ゲームでは、均衡解は次善解であり最適解になってない。そこで、行政の戦略と住民の情報保有度についてのモデル化を行う。この結果、行政に対しては監視、住民に対しては啓蒙、それぞれの役割を果たすエージェント(ガーディアン・エージェント(Guardian Agent)と呼ぶ)を導入すると、強制開示によらなくてもパレート解を達成できる可能性があることを示す。ガーディアン・エージェントの例としては、ファシリテータやNPO等をあげることができる。
著者
白楽 ロックビル
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.59-71, 2011

10年余りかけ、読売新聞の記事データベースから、明治・大正・昭和・平成時代(1874~2009年)の136年間の「研究者の事件データベース」を作り、最近完成させた(白楽ロックビル『研究者の事件と倫理』、講談社サイエンティフィック、2011年9月出版予定)。136年間の「研究者の事件」(含・技術者)は、文系も含めた全分野で1,402件あった。直近23年間(1987~2009年)の件数の多い順の「事件種」ランキングでは、セクハラが1位、研究費が2位、改ざんが3位だった。「研究者の事件」をおこす研究者は、「55+歳の大学医学部の男性教授」が多かった。「盗用」、「ねつ造・改ざん」を詳細に分析した。
著者
山本 仁志 諏訪 博彦 岡田 勇 鳥海 不二夫 和泉 潔 橋本 康弘
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-43, 2011-09

本研究の目的は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトにおけるコミュニケーション構造の推移に着目し,SNSのライフサイクルにある種の法則性を見出すことである。我々は,SNSにおけるコミュニケーションのされ方の移り変わりに着目し,コミュニケーション関係は固定的に維持されるのか,推移していくのか,コミュニケーション関係はフレンドネットワークと近いのか,無関係なのかといったコミュニケーションの性質を表す因子を抽出している。これらの指標から,コミュニケーション構造の推移を明らかにし,その推移をライフサイクルとみなしSNSを分類している。分類したSNSのネットワーク構造や活性化の度合いを比較し,さらに特徴を分析している。その結果,現実の人間関係がベースとなるSNSは規模が小さく密なコミュニケーションがなされていることを確認している。また,ファンサイトのような対象物を中心としたSNSは,初期に開拓的であるものがより活性化することを確認している。
著者
江口 眞人
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.39-58, 2006
被引用文献数
1

ISP事業者の選択にあたり最も重視されているのは、価格だと言われている。本論文では、ISP事業者の選択やインターネット利用状況に関する既存の調査データを用いた実証研究を通じ、大手ISP事業者の乗り換え選択構造を述べる。本論文の主要な成果は以下にまとめられる。1.ISP事業者を乗り換える理由は価格だけでなく、接続スピード、付加機能、コンテンツサービスも重要な要因として機能している。2.ISP事業者の乗り換え選択に2つの代表的なパターンが観測される。Yahoo!BB、ぷらら、へと乗り換える低価格・接続スピード重視型、So-net、@niftyへと乗り換える付加機能・コンテンツサービス重視型である。3.ISP事業者の乗り換え選択には、ユーザーニーズとインターネット利用状況(行動特性)の双方が関係した場合に、より明確な影響が現れる。以上の知見は、今後、ISP事業者がとるべき戦略を議論するうえでのベースとなるものである。
著者
児玉 晴男 鈴木 一史 柳沼 良知
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.95-105, 2012-03

放送アーカイブの構築は,「e-Japan戦略II」で取り上げられた重要な施策である。この放送アーカイブは,放送事業者により著作・制作された放送番組が対象となっている。ここで,放送番組のコンテンツの構造は,テキストと映像(動画,静止画)からなっている。そのテキストと映像とがメディア融合されアーカイブされたコンテンツは,インターネット配信される対象としてのウェブキャストコンテンツを指向するものになろう。ところが,その取組みは,十分に履行されている状況にあるとはいえない。その要因に,著作権とプライバシーとの相関問題がある。もうひとつの課題として,倫理的な問題がある。本稿は,コンテンツのインターネット配信に関する法的・倫理的な課題への対応について,著作権法制と情報法制および放送倫理と出版倫理などを統合する観点から考察する。その考察から,わが国の社会制度に適合したコンテンツのインターネット配信に関する社会情報システムは,コンテンツ管理と権利管理が相互に連携し,権利管理を財産権の保護と制限および人格権とコンテンツの同一性の保持とを連携させることによって,効率的で合理的に機能するものとなることを導出する。そして,コンテンツのインターネット配信を促進するための,コンテンツ管理と権利管理とが相互に連携するコンテンツの著作・制作・保存の仕組みの開発事例について紹介する。
著者
加藤 由樹 加藤 尚吾 赤堀 侃司 Yuuki KATO Shogo KATO Kanji AKAHORI 東京工業大学 東京工業大学 東京工業大学 Tokyo Institute of Technology Tokyo Institute of Technology Tokyo Institute of Technology
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 = Journal of social informatics (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.17-33, 2007-09-30

本研究では,電子メールに注目し,電子メールの書き手の性別が読み手の感情面に及ぼす影響について検討した。本研究では,実験Iと実験IIを実施し,それぞれで得られた結果を考察した。実験Iでは,電子メールの書き手の性別がわかっているときの読み手の感情面について分析した。また,実験IIでは,電子メールの書き手の性別がわからないときの読み手による書き手の性別判断と,読み手の感情面について分析した。両実験で得られた主な結果は,顔文字の使用が,性別の差の指標になっている可能性が示唆されたことである。そのため,提示されたメール文の書き手の性別とそのメール文の内容が,合っている場合に快感情を生じ,合っていない場合に不快感情を生じた。また,男性,女性の両被験者において,性別判断の結果に最も影響を及ぼしたのは,メール文における顔文字の有無であった。This study examined the influence of e-mail senders' gender on recipients' emotional aspects using university students, and it is twofold consisting of Experiments I and II. In Experiment I, the authors analyzed the emotional elements related to the e-mail readers with revealing the gender of writers. In Experiment II, the subjects were asked to identify the gender of e-mail writers; here further analysis was done on the ways the readers identified the gender of writers and the emotional elements related to the readers under such a condition. The major finding from the two experiments is the possibility of emoticons serving as index for gender identification. Actually, the existence of emoticons in the e-mails affected the subjects' gender identification most significantly regardless of the subjects' gender. In addition, when the subjects felt that the "assumed" gender of a writer suited the content of corresponding e-mail, pleasant/favorable emotions were generated, whereas when they didn't match, unpleasant/unfavorable emotions were caused.