著者
橋本 寿哉
出版者
大東文化大学環境創造学会
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-32, 2013-11

1397年に創設されたメディチ銀行は、現代の持株会社組織に似た構造をもつ大規模商業組織として発展を遂げ、15世紀のメディチ家の政治的、文化的活動を支えたが、創設から半世紀以上に亘って、フィレンツェの本部組織で記録されていた3冊の秘密帳簿が20世紀中葉に発見された。3冊の帳簿には、本部組織や各地の拠点の結成契約書が書き写された他、本部組織において記帳された会計記録が含まれていた。持株会社形態の組織体制が完成された1435年以降の帳簿には、各地の拠点を設立するための資本の拠出や各拠点で稼得した利益額の計上及び分配等が、複式簿記を用いて整然と記帳されており、巨大組織の効率的な管理を実現するため、各地の拠点を含む組織全体の会計実務を総括する体系的な実務が行われていたことがわかる。しかし、定期的な帳簿の締め切りや決算書等の作成は行われておらず、最終的には、メディチ家当主らの持分管理に重点を置いたものへと変化していった。
著者
橋本 寿哉
出版者
大東文化大学環境創造学会
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
no.25, pp.1-39, 2020-02

近世日本の一部の商家では、西洋起源の複式簿記と同一原理の複式決算を可能とする日本固有の簿記法を用いた体系的な会計実務が行われていた。そうした実務は、高度な組織体制を構築した大商家において見られたことから、その生成・発達の過程や要因を、商家の組織体制との関わりにおいて明らかにするため、17世紀後半に江戸に進出して木綿問屋として発展を遂げた伊勢商人・長谷川治郎兵衛家を事例として採り上げ、同家の会計実務の発達過程を、経営上の3つの時代区分に基づいて考察した。考察から、会計実務は組織体制の発展に対応して段階的な発達を見せ、最終的に一族の事業、家産、家計が本家によって一元的に統括される中央集権的な組織体制へ発展したことが、体系的な会計実務を完成させることになったことが明らかになった。