著者
川村 千鶴子
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-45, 2002-04-25

「創造性」とは何か。学際的な研究者の出会いが、新しい自律した学問領域を構築するためには、どのような共通認識をもち、どのようなプロセスを経ていくべきなのだろうか。諸科学の専門性を生かして、相互裨益てきに示唆を得て、自律したより高度の理論体系の構築をめざすとき、「創造性」は、その鍵概念といえよう。本稿は、学際的環境が創造性を発揮しうる条件として、自己内発性、衝突や葛藤に耐えうる能動的対話力、創発の取り込み、共通目標の明確化とリテラシーの獲得をあげ、その理由とプロセスを考察する。またトランスナショナルな研究活動には、異文化間トレランスの醸成が必要である。それらは、心理学、経営学、異文化間教育学などの理論的蓄積とNGO活動の研究をもとに考察した。
著者
橋本 寿哉
出版者
大東文化大学環境創造学会
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-32, 2013-11

1397年に創設されたメディチ銀行は、現代の持株会社組織に似た構造をもつ大規模商業組織として発展を遂げ、15世紀のメディチ家の政治的、文化的活動を支えたが、創設から半世紀以上に亘って、フィレンツェの本部組織で記録されていた3冊の秘密帳簿が20世紀中葉に発見された。3冊の帳簿には、本部組織や各地の拠点の結成契約書が書き写された他、本部組織において記帳された会計記録が含まれていた。持株会社形態の組織体制が完成された1435年以降の帳簿には、各地の拠点を設立するための資本の拠出や各拠点で稼得した利益額の計上及び分配等が、複式簿記を用いて整然と記帳されており、巨大組織の効率的な管理を実現するため、各地の拠点を含む組織全体の会計実務を総括する体系的な実務が行われていたことがわかる。しかし、定期的な帳簿の締め切りや決算書等の作成は行われておらず、最終的には、メディチ家当主らの持分管理に重点を置いたものへと変化していった。
著者
福島 斉
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.1, no.7, pp.19-30, 2004-10

現代の多忙なストレス社会では過労死が深刻な社会問題の一つとなりつつある。1987年にはその認定件数は21件であったが、2003年には312件へと激増している。直接の死亡原因は長時間労働による睡眠不足や精神的ストレスが誘因となる脳血管疾患である。発症前1ヶ月におよそ100時間以上、または発症前2ヶ月ないし6ヶ月にわたって、月間およそ80時間以上の残業があった場合は、業務と発症との関連性は極めて強いとされている。個人レベルでの健康管理も大切であるが、何よりも長時間労働が心身に著明な悪影響を及ぼすということを啓蒙まることが今後必要である。
著者
橋本 寿哉
出版者
大東文化大学環境創造学会
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
no.25, pp.1-39, 2020-02

近世日本の一部の商家では、西洋起源の複式簿記と同一原理の複式決算を可能とする日本固有の簿記法を用いた体系的な会計実務が行われていた。そうした実務は、高度な組織体制を構築した大商家において見られたことから、その生成・発達の過程や要因を、商家の組織体制との関わりにおいて明らかにするため、17世紀後半に江戸に進出して木綿問屋として発展を遂げた伊勢商人・長谷川治郎兵衛家を事例として採り上げ、同家の会計実務の発達過程を、経営上の3つの時代区分に基づいて考察した。考察から、会計実務は組織体制の発展に対応して段階的な発達を見せ、最終的に一族の事業、家産、家計が本家によって一元的に統括される中央集権的な組織体制へ発展したことが、体系的な会計実務を完成させることになったことが明らかになった。
著者
川村 千鶴子
出版者
大東文化大学環境創造学会
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
no.22, pp.11-20, 2016-09

2016年は、戦後71年目にあたる。その間、日本は「永住」を目的とする外国人の入国を認めず、在留資格に「移民」の項目はない。しかし永住者、特別永住者の割合は大きく、人口減少の中、移民の包摂は重要課題である。格差が拡大する社会で、移民政策は、政治的社会的リスクと多文化「共創」の構築の双方を照らし合わせて検討されなければならない。「多文化共創」とは、単に文化的多様性を尊重するだけではなく、移民、難民、無国籍者、障がい者、一人親家庭など多様な人びとと隣人として市民としてより積極的に交流し、行政とともに人権の概念を大切にし、異種混淆性に理解のある幸福度の高い社会を目指すことにある。本特集は、自治体と企業行動、EUの変遷、映像メディア、無国籍者に照射して、日本の移民政策への道を考察する。多様性とは、国籍、性別、年齢、民族、信仰、在留資格の違いを指すものではく、個人の持つあらゆる属性の次元に光を当てることである。換言すれば、多様性の照射は、現実的な移民政策を導きだすことになる。そして人々の多文化共創の実践と蓄積が移民政策の土台となる。
著者
川村 千鶴子
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.29-43, 2004-04-26

提言 : 多文化共生庁の創設 今世紀初頭、人口減少と少子高齢化が加速する日本で、外国人をいかに受容すべきかといった出入国管理行政が盛んに論議されている。その前提には各省庁の連携が必要であり、統合された多文化共生政策を構築していかねばならないという認識がある。多文化共生社会の実現にむけて地域に培われた共生努力の蓄積を学び、国内外にネットワークを確立し、支援体制をもつことが急務である。日本にはいまだにその行政機関ができていない。本稿は、日本国政府が、多元価値社会の連携と努力を多文化共生政策につなぐ国の行政機関として「多文化共生庁 (仮称)」を内閣府に創設し、多文化共生の理念を日本人自らが明確にして世界に発信することを提言する。
著者
中本 博皓
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.3-28, 2004-04-26

(1) 今日、グローバル化はあらゆる面で、ボーダレスな「人」の移動を容易にしている。したがって、異なる民族・文化・宗教・価値観の交錯する場や機会は、どこの国でも大都市だけではなく、地方都市にも波及している。(2) わが国の経済が長期停滞から回復の軌道に入ったときには、おそらく日本の人口は、逆に減少期を迎えるであろう。(3) 本稿の目的は、上記の (1) と (2) を前提にして、少子化と高齢化が一段と進む日本社会における経済と外国人労働者問題に対して、若干の考察を試みることにある。合わせて、少子化に伴う留学生受け入れにも言及する。なお本稿の構成は、下記の通りである。I. 外国人労働者問題序説 -グローバル化の時代に求められるもの- II. 経済の発展と労働人口 III. 少子・高齢化時代の外国人労働者政策に求められるもの IV. 結論 -外国人留学生の受け入れと大学の役割- 特に、本稿の「結論」として、日本の大学に、外国人留学生を受け入れる熱意が、本当にあるのだろうか、と自省を込めて問いたい。
著者
植野 一芳
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.1, no.9, pp.1-16, 2006-07

1997年、児童福祉法は制定以来50年ぶりに改正された。以降、保育所にかかわる主な改正は、2001年、2003年と続いた。これら-連の改正の中に、現在、そして今後の保育所のあり方を規定する大きな「うねり」の起点があるのでは、という問題意識が膨らむ。その「うねり」とは、保育分野の規制緩和であり 、さらには、それを具現化した公立保育所の民営化などを含むいわゆる「保育改革」である。本稿の目的は、97年以降の保育所にかかわる児童福祉法改正の動きを追い、その中に保育改革につながる起点を確認していくことにある。
著者
青木 重明
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.45-65, 2002-10-27

現在、様々な危機を作り出している産業文明を乗り越えるべく新しい文明(エコソフィア文明と仮称)を構想する時、それはトランスパーソナルな経験を中核に考えられるべきである。トランスパーソナルな経験を、新しい文明の経験様式としてみるならば、相互連関性の形式を取り出すことができる。相互連関性には、科学・日常意識に経験される浅い(普通の意味での)相互連関性と、トランスパーソナルに経験される深い相互連関性とがある。ここで問題とする後者は、空間的には、存在者が相互浸透的である事態(とも存在およびポエティックな本質)として、時間的には、全時間がその中にふくまれる瞬間として経験される。時間性の変容によって、自己目的的な活動形式としての遊戯が、自己においても世界においても(世界遊戯)現れる。さらに、深い相互連関性の論理として、「同一性と差異性の相即的成立」を、自己のあり方として相互連関的自己(脱存)を考える。
著者
下山 重幸
出版者
大東文化大学
雑誌
環境創造 (ISSN:13468758)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-42, 2006-07-31

1997年にクローン羊、ドリーが誕生して以来、クローン技術の発展には目覚しいものがある。これに対して、クローン技術のヒトへの応用については、各国ともに厳しく規制しており、我が国も「クローン規制法」が制定された。クローン人間に対する危惧から、治療用クローン技術までも否定してしまうことは科学の発展の阻害になる虞が懸念されている。それだけでなく、不妊治療の最終手段としてのクローン技術の利用は、憲法一三条の自己決定権によって保障されていると考えることも不可能ではないと考える。