著者
安岡 譽 橋本 忠行
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.98, pp.83-113, 2015-10-01

2012年度のノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授らが開発したiPS細胞(人工多機能性幹細胞)の出現は,従来の人間の性や性愛の概念について根本的な再考を余儀なくされることを予測させた点で,私たちに大きな衝撃を与えている。そこで筆者らは,まずこれまでの人間の性と性愛について,精神医学と臨床心理学の立場からの理解のレビューを試みた。そのうえで次に,将来に予測される人間の性と性愛に関する概念に大きな変更を余儀なくされる可能性について検討した。そして,iPS細胞の技術の今後の発展がもたらすと予測される事態と課題は,1)同性配偶による子の誕生と「処女生殖」(単為生殖)の可能性,2)男性と女性という2性の概念そのものの変化の可能性,3)性の精神病理を新たな視点から理解することと,性的障害の診断と治療に関して慎重な判断と対応がせまられること,4)当面は,家族・家庭の再生と再建がより重要な課題となること,と考えられた。最後に,筆者らの現時点での人類の未来予測を述べ,若干の考察と私見についてふれた。
著者
草岡 章大 岩壁 茂 橋本 忠行
出版者
金剛出版
雑誌
臨床心理学 (ISSN:13459171)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.840-849, 2017-11

セラピーにおける初回面接の重要性は多様な理論に共通しているが,その初回面接でのクライエントの主観的体験を扱った研究は少ない。そこで,本研究では大学付属カウンセリングセンターに来談したクライエントの主観的体験について初回面接直後にインタビューし,質的研究法による分析を行った。その結果,【次への光が見えた】と【セラピーへの幻滅】という2つの上位カテゴリーが見出された。これらから,クライエントが成功と感じる初回面接の特徴として,素晴らしいセラピストとの出会い,クライエントの主体性や自発性の発揮,セラピーの結果への肯定的な確信,の3点が示された。一方で,失敗だと感じる初回面接では,状態や問題の悪化,セラピーへの失望や疑念の高まり,の2点の特徴がみられた。今後の臨床実践において,初回面接を含むセラピー初期に,クライエントが抱く期待と実際とのギャップを扱うことの重要性が示唆された。