著者
春日 由美
出版者
金剛出版
雑誌
臨床心理学 (ISSN:13459171)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.371-381, 2007-05
著者
篠原 しのぶ 原崎 聖子
出版者
福岡女学院大学
雑誌
臨床心理学 (ISSN:13499858)
巻号頁・発行日
no.1, pp.9-20, 2004-03

「甘え」という概念の中には多くの要素が含まれているが、今回は過去の研究結果(篠原・1998)で抽出した6個の甘え因子を用いて女子の大学生に対して調査を実施し、その背景との関わりを検討した。その概要は次のとおりである。1.幼少期に両親から受けた養育と「甘え」との関係 大学生の幼少期は、「家族全員が集まって食事」をし、「寝るときに本を読んで」もらっており、「大切に育てられ」ているが「養育の中心は母親」であったことがわかる。更に「自分でできることは自分でする」ように言われて育った者は、『引っ込み思案』『責任回避』『非自立』『追従』の各甘えがいずれも低い。また、「両親から大切に育てられた」者たちは『引っ込み思案』『屈折』等の甘えが低い。即ち、幼少期の適切な育て方が甘えの低減に大いに役立っていることがわかる。2.「経済観念」と「甘え」との関係 全ての「甘え」因子が経済観念と深く関わっている。 殊に「甘え」得点の高いものは『親のすねをかじる』傾向が高いが中でも『非自立の甘え』においてこの傾向が顕著である。また、「家庭の経済状態」を熟知しているものや、倹約的、計画的金銭使用を心がけている者たちは、いずれも各甘え因子の低群に多いということが明らかである。3.生活意識と「甘え」との関係 『親の厳格性』『親との親和性』等が全般的に高く、幼少期の親の養育態度をよく反映している。しかし、男性のほうが「度胸がある」「職務に忠実である」「リーダーシップがある」等の項目が軒並み下位に位置している。即ち男性に対する信頼感が非常に低いということである。 これを「甘え」との関係で見てみると、『自己主張』『親の厳格性』『親との親和性』等は全て、甘え得点が低い者たちに多いことがわかる。即ち、親との関係が良いものは甘えが少なく、自己主張ができるものは甘えの低い者たちである。殊に『責任回避』『非自立』『追従』等の甘えはいずれも甘えの少ない者たちが望ましい生活意識を持っていることがわかる。ただ、『受容承認を求める甘え』のみは他の甘え因子とは異なる様相を呈している。いずれにしても「生活意識」の持ち方は「甘え」と大きく関わっている。4.愛他行動と「甘え」との関係 『協調的愛他行動』、『積極的愛他行動』、『許容的行動』の因子で見てみると、女子大学生は『協調的愛他行動』はかなりよくできているのに対して、『積極的』『許容的』愛他行動をとることはあまり育っていないことがわかる。 次に各項目を「甘え因子」との関係で見てみると、『受容承認を求める甘え』以外の各甘え因子ではいずれも低得点群、即ち甘えの少ないものの方が愛他行動をよくとっている。ここでも『受容承認を求める甘え』のみは他と異なる様相であることは興味深い。5.将来の配偶者に対する役割期待と「甘え」との関係 28項目中18項目において、4.0を超えて配偶者に家事分担を期待している。卒業後キャリアを持ち続けたいと望む女子大学生が多いことから、結婚後の家庭生活において夫に分担を期待しているのであろう。しかし、「掃除・洗濯」「食事の用意」「食事の後片付け」「食料の買出し」等、従来から女性の役割とされてきたものに対しては、夫への期待が他の項目より少なくなっている。「甘え」との関係では、『引っ込み思案』『屈折』『責任回避』の甘え群は、そのような甘えの傾向が少ないものの方が夫への期待が大きく『受容承認』ではその甘えが強いもののほうが期待が大きい。しかし、伝統的女性役割とされてきた項目は一項目も甘えとの関係が見られていない。即ち甘えの高低に関わらず、女性的役割は夫へ期待していないということがわかる。6.日本人的価値観と「甘え」との関係 昭和初期から総理府が調査し続けてきた項目の中から3問を抜き出して調査した。 (1)蟻とキリギリスについて 1991年の結果と比較してみると、いずれも"諭した上で食べものを分け与える"という回答が多いが、この10年余りの間にこの回答、即ち「日本人的回答」が有意に減少している。「甘え」との関係で見てみると、『受容承認』『屈折』『責任回避』の甘えに関しては、"追い返す"と回答したものの方が甘え得点が高い。 (2)課長のタイプ選択について この項目では10年間に変化無く「日本人的回答」である"人情課長"を選択するものが多く、外国の回答と大きく異なっている。上司に対する受け止め方の違いを如実に表している。「甘え」との関係で見ると、『責任回避』の甘え以外では甘えの得点に有意な差が認められなかった。 (3)将来の暮らし方について この質問項目では、1991年の結果とかなりの変化がみられ、特に、"社会のためになるようなことをして暮らしたい"と、"清く正しく暮らしたい"という回答が増えていることは興味深い。しかも殆どの甘え項目において"社会のために"を選択したものの甘え得点が低くなっている。 以上で見てきたとおり、現代若者(今回は女子大学生)の甘えの背景には、幼少期に受けた親の養育や、日本人的価値観等が大きくかかわっており、ひいては、生活意識、経済観念、愛他行動、夫婦の役割に対する期待等が甘えと強く関連していることが明らかとなったと言える。
著者
草岡 章大 岩壁 茂 橋本 忠行
出版者
金剛出版
雑誌
臨床心理学 (ISSN:13459171)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.840-849, 2017-11

セラピーにおける初回面接の重要性は多様な理論に共通しているが,その初回面接でのクライエントの主観的体験を扱った研究は少ない。そこで,本研究では大学付属カウンセリングセンターに来談したクライエントの主観的体験について初回面接直後にインタビューし,質的研究法による分析を行った。その結果,【次への光が見えた】と【セラピーへの幻滅】という2つの上位カテゴリーが見出された。これらから,クライエントが成功と感じる初回面接の特徴として,素晴らしいセラピストとの出会い,クライエントの主体性や自発性の発揮,セラピーの結果への肯定的な確信,の3点が示された。一方で,失敗だと感じる初回面接では,状態や問題の悪化,セラピーへの失望や疑念の高まり,の2点の特徴がみられた。今後の臨床実践において,初回面接を含むセラピー初期に,クライエントが抱く期待と実際とのギャップを扱うことの重要性が示唆された。