- 著者
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橋本 龍樹
大谷 浩
八田 稔久
宇田川 潤
- 出版者
- 島根大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
異所性に水晶体を誘導させるため、表皮外胚葉へ水晶体形成に関与する転写調節因子を表皮外胚葉へ導入した。導入時期を決定するため、レポーター遺伝子であるLacZを組み込んだアデノウイルスを、妊娠8日目から13日目の羊水中に注入し、妊娠13日及び14日目に胎児を取り出し、X-gal染色およびβgalactosidase抗体によって感染細胞を検出した。その結果、妊娠9日目に注入した胎児では水晶体と網膜の間にある間葉細胞が感染していたが、水晶体線維細胞には感染していなかった。妊娠11日目に注入した胎児では、水晶体線維細胞の一部が感染していた。分裂期にある細胞にのみ感染し、持続的に感染するLacZを組み込んだレトロウイルスを用いて妊娠10.0日と10.5日目に注入して感染させ、妊娠14日目に胎児を取り出した。その結果、妊娠10.0日に注入した胎児の眼球において、多数の水晶体線維細胞と一部の水晶体上皮細胞、および一部の網膜色素上皮細胞が感染しており、10.5日目に注入した胎児の眼球においては、水晶体全体に感染しており、わずかな網膜色素上皮細胞が感染していた。これらの実験より、注入時期を妊娠9.5〜11.0日とした。水晶体形成に関与している転写調節因子の一つであるFoxE3と、この遺伝子の転写調節領域及びSV40 poly Aを連結させたコンストラクトを作成した。FoxE3の突然変異マウス(dyl/dyl)にこれを導入したトランスジェニックマウスでは、小眼球症が改善することが確かめられている。アデノウイルスによってこの遺伝子を表皮外胚葉へ一過性に導入することにより、水晶体・眼球の組織形成におけるFoxE3の働きを解析できると予測された。ウイルス作成・濃縮過程を経て1.06×10^<10> pfu/mlの濃縮ウイルス液を得た。濃縮ウイルス液を妊娠10.5日目のdyl/dyl胎児の羊水中に注入し、15.5日目胎児における眼球を観察した。その結果、注入した胎児の眼球では、角膜と水晶体上皮の癒着は起こっていなかったが、水晶体線維細胞の走行の乱れや水晶体内に空胞を認め、このウイルスによって水晶体の異常を改善させる得ることが推測された。