著者
橘 春菜 藤村 宣之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-11, 2010-03-30
被引用文献数
1 1

本研究では,高校生のペアでの問題解決に焦点をあて,他者と相互に知識を関連づける協同過程を通じて,概念的理解をともなう知識統合が個人内の変化としてどのように促進されるかを検討した。問題解決方略の質的変化(複数の知識を個別に説明する方略から複数の知識を関連づけて包括的に説明する方略への変化)が想定される数学的問題を事前課題-介入(協同または単独)-事後課題のデザインで実施した。実験1では(1)協同条件では単独条件よりも事前から事後にかけての解決方略の質的変化が生じやすいこと,(2)協同場面での複数の要素を関連づけた説明が事後課題での包括的説明方略の適用と関連が強いことが示された。実験2では,方略の質的変化をより促進するため,介入課題において,実験1の教示(以後,一括教示)と比べて,要素の関連づけ過程やその前段階の要素の抽出過程の活性化を目指した段階的教示を行った。その結果,(1)段階的教示では,事前から事後にかけての方略変化が一括教示よりも生じやすく,協同条件でその促進効果が顕著であること,(2)方略の質的変化が生じる協同過程では,ペアで相互に知識を構築する協同過程がみられることが示された。
著者
橘 春菜
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.469-479, 2007-12-30

本研究の目的は,幼児期後期から児童期中期の子どもを対象に描画課題を実施し,他者に情報を伝える意図をもつことで対象物の非視覚的性質の表現をどのように調整するか,その発達的変化を検討することであった。具体的には,幼児22名,小学校2年生20名,4年生21名を対象に次の課題を実施した。まず,対象児に外観が同じ2つの対象物の重さを区別する体験をさせた後に,それらの対象物の絵を自由に描かせた(自由課題)。続いて対象物の重さの違いを絵で他者に伝える意図を明示して,再度対象物の絵を描かせた(伝達課題)。分析では,対象児の描画と言語報告に基づき,その表現方略を年齢間で比較した。その結果,自由課題では表現方略に年齢差がみられなかった。伝達課題では,幼児では言葉による説明を付加しながら物語的に重さを伝える「継時付与方略」,2年生では対象物の大きさの違いのみで重さを伝える「同時単独方略」,4年生では媒介物(例:シーソー)等の非実在物を同時に提示することで重さを比較させる「同時付与方略」が多いこと等が示された。これらの結果より,発達にともない他者にわかりやすく意図を伝える表現における質的な変化が示唆された。