著者
大桃 敏行 秋田 喜代美 村上 祐介 勝野 正章 牧野 篤 藤村 宣之 本田 由紀 浅井 幸子 北村 友人 小玉 重夫 恒吉 僚子 小国 喜弘 李 正連 植阪 友理 市川 伸一 福留 東土 新藤 浩伸 齋藤 兆史 藤江 康彦 両角 亜希子 高橋 史子 星野 崇宏 伊藤 秀樹 山本 清 吉良 直 星野 崇宏 伊藤 秀樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本を含めて多くの国で多様化や競争、成果に対するアカウンタビリティを重視するガバナンス改革が行われてきた。また同時に、単なる知識や技能の習得からそれらを活用する力や課題解決力、コミュニケーション能力などの育成に向けた教育の質の転換の必要性に関する議論が展開されてきた。本研究の目的はガバナンス改革と教育の質保証との関係を検討しようとするものであり、成果志向の改革では、広い能力概念に基づく教育において評価がどこまでまたどのように用いられるのかが重要な課題となってきていることなどを示した。
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
7 2

本研究では, 算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が, 児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と, 授業時のビデオ記録とワークシートの分析から, 以下の3点が明らかになった。1) 倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて, 授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2) 授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には, 他者の方法を形式的に適用した者に比べて, 洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3) 授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も, 発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて, 教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。
著者
橘 春菜 藤村 宣之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-11, 2010-03-30
被引用文献数
1 1

本研究では,高校生のペアでの問題解決に焦点をあて,他者と相互に知識を関連づける協同過程を通じて,概念的理解をともなう知識統合が個人内の変化としてどのように促進されるかを検討した。問題解決方略の質的変化(複数の知識を個別に説明する方略から複数の知識を関連づけて包括的に説明する方略への変化)が想定される数学的問題を事前課題-介入(協同または単独)-事後課題のデザインで実施した。実験1では(1)協同条件では単独条件よりも事前から事後にかけての解決方略の質的変化が生じやすいこと,(2)協同場面での複数の要素を関連づけた説明が事後課題での包括的説明方略の適用と関連が強いことが示された。実験2では,方略の質的変化をより促進するため,介入課題において,実験1の教示(以後,一括教示)と比べて,要素の関連づけ過程やその前段階の要素の抽出過程の活性化を目指した段階的教示を行った。その結果,(1)段階的教示では,事前から事後にかけての方略変化が一括教示よりも生じやすく,協同条件でその促進効果が顕著であること,(2)方略の質的変化が生じる協同過程では,ペアで相互に知識を構築する協同過程がみられることが示された。
著者
石橋 優美 藤村 宣之
出版者
日本家政学会児童学部会
雑誌
児童学研究 (ISSN:24344508)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.51-61, 2020 (Released:2022-02-24)

This present study examined how interventions based on students’ prior knowledge facilitates their conceptual understanding. Individual experiments were conducted on seventh graders (N=39 in Experiment 1; N=38 in Experiment 2), and they solved some problems about oxidation reaction in 3 sessions: pre-test, intervention (2 conditions: experimental or control), and post-test. In Experiment 1, students’ in experimental condition reasoned condition of a thing through time using pictures. On the other hand, students’ in control condition were showed a thing in pictures. The results indicated that (a) three levels were identified, (b) the experimental condition facilitated the understanding, and (c) understanding deepening in the intervention were related to that in the post-test. The purpose of Experiment 2 was to investigate the intervention of Experiment 1, and a real thing was used in place of pictures. The results showed that (a) the experimental condition facilitated the understanding, (b) understanding deepening in the intervention was related to that in the post-test, and (c) Experiment 2 had the more effect on the understanding than Experiment 1.
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 = The Japanese journal of educational psychology (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002

本研究では,算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が,児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と,授業時のビデオ記録とワークシートの分析から,以下の3点が明らかになった。1)倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて,授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2)授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には,他者の方法を形式的に適用した者に比べて,洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3)授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も,発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて,教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。The present study examined how children change their problem-solving strategies through social interaction in mathematics classrooms. A mathematics teacher taught a lesson on intensive quantity to 2 fifthgrade classes by means of either a method based on children's intuitive strategies or a conventional method. Children in both classes were asked to solve proportion problems before and after the lesson. Videotaped records of the lesson, and worksheets used by the children, were analyzed. Instruction based on children's intuitive thought was more useful when children were solving near-transfer tasks than was conventional instruction. Those who understood others' ideas presented in the classroom and incorporated those ideas into their own strategies used a sophisticated strategy (a unit strategy) on the posttest more often than those who superficially imitated others' ideas. Both children who had not said anything during the lesson and those who had made comments benefited from the experimental instruction method. A new direction of research in cognition and instruction, and general characteristics of strategy change, were discussed.
著者
工藤与志文 藤村宣之 田島充士 宮崎清孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

企画主旨工藤 与志文 本シンポジウムは2011年から始まった同名のシンポジウムの4回目である。また,企画者の一人として,その締めくくりとしての意味合いを持たせたいとも考えている。今回のテーマは「教育目標をどう扱うべきか」である。そもそもこれら一連のシンポジウムは,学習すべき知識の内容や質を等閑視し,コンテントフリーな研究課題しか扱わない教育心理学研究のあり方に対する批判からスタートしたものと理解している。そのような問題意識の行き着く先は「教育目標の扱い」ではないか。これまでのシンポジウムで度々指摘されてきた教育心理学の「教育方法への傾斜」は,自ら教育目標の善し悪しを検討することが少ないという教育心理学研究者の研究姿勢と関連している。教育目標がどうあるべきかという問題は教育学や教科教育学の専門家が取り扱うべきであり,教育心理学はその実現方法を考えていればよいという「分業的姿勢」の是非が問われるべきではないだろうか。本シンポジウムでは,上記の問題意識をふまえ,教育心理学研究は教育目標そのものをどのように俎上にのせうるか,その可能性について議論したい。教科教育に対する心理学的アプローチ:発問をどのように構成するか藤村 宣之 教育目標に対して教育心理学がどのようにアプローチするかに関して,より長期的・教科・単元横断的なマクロな視点と,より短期的なミクロな視点から考えてみたい。 マクロな視点によるアプローチの一つとしては,各学年・教科・単元の目標を,発達課題などとの関わりで教科・単元横断的にあるいは教科や単元を連携させて設定し,それに対応させて構成した学習内容に関する長期的な授業のプロセスと効果を心理学的に評価することが考えられるであろう。その際には,学習内容にテーマ性,日常性を持たせることが教科・単元を関連づけた目標設定を行ううえでも,子どもの多様な既有知識を生かして授業を構成するうえでも重要になると考えられる。 より短期的に実現可能なミクロな視点からの関わりの一つとしては,各単元・授業単位で,どのような発問を設定して,子どもたちに思考を展開させることを考えることで,単元の本質的な内容の理解に迫るというアプローチも考えられる。当該単元の教材研究を子どもの思考や理解の視点から行うことを通じて,どのような力をその単元・時間で子どもに獲得させるか(たとえば当該単元のどのような理解の深まりを一人一人の目標とするか)を考え,それを発問の構成に反映させていくというアプローチである。 ミクロな視点からのアプローチの一つとして,子どもの多様な既有知識を発問の構成に活用し,探究過程とクラス全体の協同過程を組織することで,一人一人の子どもの各単元の概念的理解の深まりを目標とした学習方法(協同的探究学習)のプロセスと効果について,本シンポジウムでは報告を行いたい。発問の構成の方針としては,導入問題の発問としては,当該教科における既習内容に関する知識,他教科の関連する知識,日常的知識など子どもの多様な既有知識を喚起し,個別探究過程,協同探究過程を通じてそれらの知識を関連づけ,さらに,後続する展開(発展)問題の発問としては,それらの関連づけられた知識を活用して単元の本質に迫ることが,個々の学習者の概念的理解を深めるうえでは有効ではないかと考えられる。以上に関する具体的な話題提供と討論を通じて,教科教育の教育目標を対象とする教育心理学研究のあり方について考察を深めたい。知識操作と教育目標工藤 与志文 ここしばらく「知識操作」に関する研究を続けている。知識操作とは,課題解決のために知識表象を変形する心的活動のことを指す。近年,法則的知識(ルール)の学習研究において知識操作の重要性が示されつつある。ところで,同一領域に関する知識といっても,操作しやすい知識と操作しにくい知識があるように思う。西林氏の言葉を借りれば,知識は「課題解決のための武器」であるのだから,どんな武器を与えるかによって戦い方も変わってくるだろうし,すぐれた武器があれば勝算も高まるだろう。筆者は,「操作のしやすさ」をすぐれた武器の要件の1つだと考えている。雑多な知識の中からすぐれた武器となる知識を精選し,学習者がそれらを使えるように援助することは,重要な教育目標となると考えている。このような観点で教科教育を見た場合,わざわざ鈍い武器を与えているのではないかと思われる事例が少なくない。重さの保存性の学習を例に説明してみよう。 極地方式研究会テキスト「重さ」では,「ものの出入りがなければ重さは変わらない」というルールを教えている。このルールは含意命題の形式をとっているため操作が容易であり,ここから直ちに他の3つのルールを導く事ができる。①「重さが変わらないならばものの出入りはない(逆)」②「ものの出入りがあれば重さは変わる(裏)」③「重さが変わるならばものの出入りがある(対偶)」小学生がこれらのルールを駆使することで,一般に困難とされている課題に対して正しい推論と判断が可能になることが教育実践で明らかにされている。たとえば,水と発泡入浴剤の重さを測定し,入浴剤を水に入れた後の質量変化をたずねる課題では,小学3年生が重さの減少と気体の発生を関連づける推論を行うことができた(重さが減ったということは何かが出ていった→においが出ていった→においにも重さがある)。 一方,学習指導要領をみると,小3理科の目標の1つとして「物は形が変わっても重さは変わらない」ことの学習が挙げられている。教科書では,はかりの上の粘土の置き方を変えたり形を変えたりして確かめている。しかし,このルールは命題の帰結項(重さは変わらない)に対応する前提項を欠いており,含意命題の形式をとっていない。したがって,上記のような操作は不可能である。しかもこのルールは,変形して重さが変わる状況では使えない(極地研のルールでは,「重さが変わったんだから何か出入りがあったのだろう」と予想できる)。重さの保存性理解にとって,どちらの知識が武器として有効であるかは明らかではないか。本シンポジウムでは,知識操作という観点から,学習すべき知識の内容や質を問い直すつもりである。ここから,教育目標を対象にした教育心理学研究の1つの可能性を示してみたい。「学習者を異世界へいざなう教科教育の価値とは:分かったつもりから越境的交流へ」田島 充士 「学校で学んだ知識は,社会に出ると役に立たない」との言説は,今も昔も多くの人々にとって,強い説得力を持って受け止められているものだろう。学習者が学校で学ぶ知識(以下「学問知」と呼ぶ)は,実践現場で養成され活用される具体的知識(以下「実践知」と呼ぶ)と乖離する傾向にあると多くの人々によって受け止められているのは事実であり,学習者に対し,学外における実践知学習の場を提供する,インターンシップ等の実践演習型教育プログラムの実施も盛んである。 しかし教育心理学においては,この実践知習得をターゲットとした実践演習等の価値が認められる一方で,肝心の,社会実践に対する学問知教育(教科教育)の貢献可能性については,十分にモデル化されているとはいえない状況にある。本発表では,ヴィゴツキーによる科学的概念を介した発達論を基軸として,学問知が有する実践的価値を実証的に分析する理論モデルを提供することを目指す。 科学的概念とは,教科教育を通し学習される,抽象的な概念体系をともなう学問知の総体である。その特徴は,空間・時間を異にする,個々別々の具体的な文脈に孤立した実践知を,学習者自身がこの抽象体系に関連づけることで特定のカテゴリーとしてまとめ,相互の比較検証を可能にすることにある。以上のように学問知を捉えるならば,教科教育とは,異なる実践文脈を背景とし,異質な実践知を持つ,いわば異世界に属する人々との越境的な相互交流を促進する可能性を有するという点で,広く社会実践に開かれた価値のあるものだともいえる。 その一方で,教科学習においては多くの者が,授業文脈では学んだ知識を運用できるが,学外の人々との相互交流において応用的に利用することができない「分かったつもり」に陥る傾向も指摘される(田島, 2010)。これは本来,越境的交流の中でこそ活かされるべき学問知が,教室内の交流のみに,その使用が閉じられている問題といえる。つまり教科教育の問題とは,学問知そのものが社会実践に閉ざされているという点にではなく,現状では,多くの学習者がそのポテンシャルを十分に活かすことができず,学外の社会実践との関連を見出すことができないという点にあるのだと考えられる。 本発表では,以上の問題に取り組むべく,実践知との関連からみた学問知に関する理論的視座を提供する。さらに学習者を分かったつもりにとどめず,学問知のポテンシャルの活用を促進し得る教育実践の展開可能性についても検証する。その上で,学習者を異世界へいざなうという学問知の強みを活かした教科教育の社会的価値について論じる。