著者
橘 正芳
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ラットを用いて不快ストレスとして尾に電撃ショックを、快ストレスとして頭頂部に温灸刺激を与えた場合の鼻粘膜の杯細胞の分泌機能を組織化学的に検討した。体重約200グラムのWistar系雄性ラットを3群に分けた。第一群には、拘束ゲ-ジ内に入れ尾に15ボルト(最大3.4アンペア)の直流を5秒間与え、30秒休止後再び与える周期を60分間続けた。第二群は麻酔下に両側耳介を結ぶ線と正中線との交点に、カマヤミニを用い5壮温灸刺激を与えた。第三群は無処置対照群とした。各群とも断頭後、鼻中隔を摘出し10%緩衝ホルマリンにて24時間浸漬固定したのち、30分水洗し実体顕微鏡下に鼻粘膜を剥離した。これを3%酢酸水に5分間、ついで1%アルシアン・ブル-(pH2.5)に10分間浸漬した。さらに3%酢酸水に5分間浸漬し、5分間水洗したのち実体顕微鏡下に鼻尖部から後方6〜8mm部の鼻粘膜上皮を剥離した。これをスライドグラス上で伸展しグリセリンに封入した。これを光学顕微鏡にて400倍で観察し、画像計測システムを用いてアルシアン・ブル-に染まった部分の面積率を産出した。その結果アルシアン・ブル-に染まった部分、すなわち杯細胞内の多糖類が、電撃ショックにより有意に増加し、温灸刺激群では逆に有意に低下することが明らかとなった。本研究によりストレスは上気道の分泌機能に影響を与える。しかもその種類、すなわち快ストレスであるか不快ストレスかにより、反対方向の影響を与えることが明らかとなった。これらは恐らく自律神経系や、内分泌を介して起こる現象であり基礎医学的に興味深いが、臨床的にも温灸刺激が不快ストレスの悪影響を取り除く可能性を示唆しており興味深い。