著者
井上 基浩
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

鍼治療の筋緊張に対する弛緩作用の有無を明確にする目的で、動物の下腿三頭筋に対して、実験的に筋緊張モデルを作成し、足関節を他動的に一定角度まで背屈させた時の足底部に加わる圧力を指標に、鍼治療前後の変化を観察した。その結果、強縮負荷筋緊張モデルラットに対する当該筋への鍼刺激は、その直後効果において、無処置と比較して筋弛緩作用を有する傾向を見出した。この結果は、従来から経験として言われている鍼治療の筋弛緩作用にエビデンスを与える第一歩となる成果と考えた。
著者
橘 正芳
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ラットを用いて不快ストレスとして尾に電撃ショックを、快ストレスとして頭頂部に温灸刺激を与えた場合の鼻粘膜の杯細胞の分泌機能を組織化学的に検討した。体重約200グラムのWistar系雄性ラットを3群に分けた。第一群には、拘束ゲ-ジ内に入れ尾に15ボルト(最大3.4アンペア)の直流を5秒間与え、30秒休止後再び与える周期を60分間続けた。第二群は麻酔下に両側耳介を結ぶ線と正中線との交点に、カマヤミニを用い5壮温灸刺激を与えた。第三群は無処置対照群とした。各群とも断頭後、鼻中隔を摘出し10%緩衝ホルマリンにて24時間浸漬固定したのち、30分水洗し実体顕微鏡下に鼻粘膜を剥離した。これを3%酢酸水に5分間、ついで1%アルシアン・ブル-(pH2.5)に10分間浸漬した。さらに3%酢酸水に5分間浸漬し、5分間水洗したのち実体顕微鏡下に鼻尖部から後方6〜8mm部の鼻粘膜上皮を剥離した。これをスライドグラス上で伸展しグリセリンに封入した。これを光学顕微鏡にて400倍で観察し、画像計測システムを用いてアルシアン・ブル-に染まった部分の面積率を産出した。その結果アルシアン・ブル-に染まった部分、すなわち杯細胞内の多糖類が、電撃ショックにより有意に増加し、温灸刺激群では逆に有意に低下することが明らかとなった。本研究によりストレスは上気道の分泌機能に影響を与える。しかもその種類、すなわち快ストレスであるか不快ストレスかにより、反対方向の影響を与えることが明らかとなった。これらは恐らく自律神経系や、内分泌を介して起こる現象であり基礎医学的に興味深いが、臨床的にも温灸刺激が不快ストレスの悪影響を取り除く可能性を示唆しており興味深い。
著者
和辻 直 関 真亮 斉藤 宗則 篠原 昭二 有田 清三郎
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

医療分野で伝統医学(東洋医学)の診察法を活用していく上で最大の課題は、東洋医学の診察法の有用性を明らかにすることである。そこで、東洋医学の診察法を応用した健康支援システムを構築する試みとして、東洋医学の診察法と客観的測定結果を比較し、その有用性を検討した。方法は本研究に同意を得た成人6名を対象に、個々の体調変化をみるために、2週間に計6回、午後に調査した。調査項目は(1)東洋医学の診察は、診察者が顔面診、舌診、声診、問診、脈診を行った。(2)客観的測定は、顔面情報にはサーモグラフィを用いて顔面皮膚温を測定した。また舌情報を画像記録し、舌診断システムにて判断した。音声情報では音声をレコーダーに記録し、音声解析ソフトにて解析した。同時に発話音声解析システムを用いて疲労状態を計測した。さらに生理学的検査は、安静仰臥位の姿勢で瞬時心拍とR-R間隔変動を30分間連続測定した。(3)体調の把握として東洋医学健康調査票(57項目)、健康関連QOL尺度のSF-8を行った。結果は、顔面診の結果と顔面皮膚温の低温部との一致率が約8割と高かった。声診の結果と音声解析の結果に関連を認めなかったが、音声の基本周波数は東洋医学健康調査票の気虚(R=0.59,p<0.0001)や虚証などの項目と相関した。システムの一部となる舌診断システムは東洋医学健康調査票との関連が少なく、別の視点で体調変化を捉えていた。東洋医学健康調査票の心(R=0.59,p<0.0001)、肺、陽虚などの項目は心拍数に相関を示した。また東洋医学健康調査票の虚証(R=0.54,p=0.001)や全体点数などの項目はSF-8身体的サマリースコアに相関を示した。なお発話音声解析システムは解析中である。顔面や舌、音声情報や東洋医学健康調査票の結果は、いずれも個人の体調変化を捉えていたが、密接な関連が少なかった。東洋医学は各診察情報から総合的に判断するために、各診察情報を統合し、その情報の特徴を抽出することで、個人の体調変化を捉える健康支援システムが構築できる可能性が示唆された。
著者
守口 絵里
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

軽度発達障害、なかでも行動に障害を有するADHDをもつ子どもの集団生活における安全管理あるいは見守りという点でのICタグの有用性を検討するために、本研究では、疾患の有無を問わず一般の保育園に通う子どもを対象としてICタグシステム(RFID)を用いた実験を行った。実験の結果、保育士の背後にいる子どもが離れた際に保育士がその情報をすぐにキャッチできるという点で本システムは有用であった。ICタグシステムに対する保育士のニーズとしては、遠足のようにさらに大きい集団を引率する必要がある場合に、子どもの活動範囲も拡大するため有効であろうとのことであった。ただし、本実験のように研究者が同行しない状況下で使用するためには、アンテナを簡易に保持できることが求められる。ADHDを幼児期から鑑別することは難しい例が非常に多い。本研究の対象者にはADHD児は含まれておらず、多動性のみられる子どももいなかったため、ADHD児にとってのRFIDシステムの有用性についての確認はできなかったが、アラーム信号の頻度から多動性を推測し、経時的に子どもの行動をフォローアップすることは可能であると考える。
著者
市川 哲 三浦 敏弘
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

京都府中部に位置する船井郡6町(八木町、園部町、日吉町、丹波町、和知町、瑞穂町)の生涯スポーツ事業の行政評価と参加者による評価について調査を行った(「生涯スポーツ事業に関する行政担当者の意識」調査:平成9年度実施。「生涯スポーツの実施とその評価に関する住民意識調査」:平成10年度実施)。これらの調査とその分析によって得られたいくつかの知見には以下のようなものがある。1. 6町で生涯スポーツ事業として56事業が実施されていた。そのうち53事業が継続事業、2事業が新規事業、1事業が単年度事業であり、8割近い44事業が行政担当者により「問題がなかった」と評価されていた。2. 行政担当者はこれらの事業を行政評価する必要を自覚していたが、その客観的な評価基準をもっていなかった。3. したがって、行政評価は担当者の主観にゆだねられているが、こうした状況のもとでは、参加者や関係団体の声を聴くことがその客観性を保証していると考えられる。4. 生涯スポーツを(1)一人で行うスポーツ、(2)少人数で行うスポーツ、(3)地域の運動会、(4)町や体育振興会等が行う事業、の4種に区別したが、それらのスポーツに参加する住民は参加しない住民よりも生涯スポーツを地域づくりとの関係でとらえる傾向が強かった。5. 運動会参加者と事業参加者の90%以上がそれらのスポーツに満足しており、また80%以上がそれらのスポーツが近隣の人々との親睦を深める上で有効であると考えていた。