著者
檀 瑠 影 松崎 淳 井関 治 和
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.88, 2008

蛸壺型心筋症は脳出血や外科侵襲のような強いストレスが心臓に加わることによりまれに発症する。心筋基底部以外の壁運動が極度に低下し左室拡大を伴うためあたかも蛸壺のようにみえる。心不全の急性期を乗り超えれば通常一週間から数週間で左室壁運度の改善を認める。今回蛸壺型心筋症2例を経験したので報告する。症例1: 84才女性、既往歴:高血圧・高脂血症。2007年12月12日に自宅で倒れ救急車搬送来院した。頭部CTにて右後頭皮質に小さな出血巣が認められ、心電図にてV1-2 ST上昇・陰性T波および心筋逸脱酵素上昇を認めたため急性心筋梗塞が疑われ循環器入院となった。心エコー上では心室基部収縮以外左心室は動かず、たこつぼ様運動ようにみえるため蛸壺型心筋症・心不全と診断された。入院後利尿・降圧などの対症治療を行い、入院1日目より心筋逸脱酵素は徐々に下降し、入院5日目より心エコー上、心室壁運動は改善した。入院3週間後 頭部CTにて右後頭部の出血巣は認められなくなった。その後ADLをUPするため他院へ転院した。症例2: 68才女性、既往歴:2007年10月に大腸癌手術、高血圧15年。2008年1月10日、呼吸苦が生じ当院外来受診した。血液検査上では、WBC 18100/μl AST 43 IU/l CK 286 IU/l トロポニンT1.9 ng/ ml、胸部Xpでは右胸側には少量胸水を認めた。ECG上では、全誘導ST上昇。心エコー上では蛸壺様な心室壁運動、緊急心カテーテルを施行し冠状動脈に有意な狭窄を認めず、蛸壺心筋症・心不全と診断された。入院後、心不全に対して利尿剤などの対症治療を行い、心機能を改善しつつあったが、入院1週間後施行した心エコーでは左心室心尖部に新たに心内血栓を認めたため、ワーファリンの内服を開始。入院3週間後、心エコー上では心内血栓消失し心壁運度も改善した。蛸壺型心筋症は男性より高齢女性に多く(男女比 1:7)、原因は精神的ストレスは一番多く30-40%、心臓以外疾患25-30%、肉体ストレス 10-15%、事故などの外傷 10-15%に発生することが多いと報告されている。息苦しい、全身だるい、持続胸痛などとの主訴。心電図上のST上昇および陰性T波、血液検査上心筋逸脱酵素の上昇などの急性心筋梗塞様変化が認められるが、冠動脈には狭窄や閉塞などの異常は認めない。心室心尖部を中心とする広汎なバルーン状拡張と心室基底部の過収縮はよく見るパターンである。不整脈による突然死、ショック死、心破裂死の症例が存在するが、心室収縮、心電図、心筋逸脱酵素などの所見はすみやかな正常化、再発はまれで、予後は良好な疾患である。