著者
仲野 恭助 安部 義一 武田 憲雄 平野 千里
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.17-27, 1961-03-30 (Released:2009-02-12)
参考文献数
10
被引用文献数
11 16

山形県河北町の溝延地区では例年ニカメイガによる水稲の被害が,同町の北谷地地区よりも著しく多いことが経験的に知られていたので,その原因を明らかにするため一連の調査を行なった。両地区に生息しているニカメイガについて調べたところ,その形態,生態的性質,加害習性などに明りょうな差を認めることができず,両地区の生活環境にちがいのあることが示唆された。両地区の土壌を山形農試に運び,水稲を栽培して幼虫を飼育したところ,現地での観察と全く同様の結果が得られたので,両地区における生活環境のちがいは土壌に基因するものであることがわかった。両地区の土壌について詳しく調査した結果,溝延土壌は北谷地土壌に比べ可給態ケイ酸含量が低く,それに応じてここに生育した水稲体のケイ酸含量も低く,その結果として(1)成虫による産卵選好性や幼虫による食入選好性が高く,(2)幼虫に対する抗生作用が少なく,(3)幼虫の加害に対する耐性が低いことが明らかになった。すなわち土壌のケイ酸供給力のちがいが,両地区水稲のニカメイガ抵抗性の強弱を決定し,これがニカメイガの発生量や水稲被害量の多少となって現われていると結論できる。以上の結論に基いてケイ酸供給力の低い溝延地区水田にケイ酸石灰を施用し,ニカメイガによる被害を減少させることに成功した。更に溝延地区水田がケイ酸供給力の低い原因について検討し,この地帯の土壌が朝日連峰より流出堆積した花こう岩を母材とする土砂からなっていることに基因していると推定した。