著者
加藤 沙織 渡部 美穂 武田 輝美 高橋 俊章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0888, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】リーチングは,発達過程の様々な場面で頻繁に行われ,姿勢制御の能力を向上させ,奥行き知覚の発達などに寄与する。しかし,脳性麻痺痙直型両麻痺児はスムーズな重心移動が困難であり,代償運動や特異的な運動パターンを用いることが多い。本研究の目的は,痙直型両麻痺児者のリーチング動作時の各身体部位の運動角度と移動距離および重心移動を定量化し代償運動を明らかにすること,リーチング促通の介入ポイントを検討することである。【方法】脳性麻痺痙直型両麻痺児者(年齢15.6±6.3歳,両麻痺群)7名,健常成人(対照群)8名を対象に座位前方へ利き手側のリーチングを行った。両麻痺群は自力,他動的骨盤前傾操作,体幹伸展操作の3条件,対照群は自力の1条件で行った。ハイブリッド高速度カメラを使用して,頭部,C7,Th7,S1,ASIS,大転子,外側裂隙,肩峰,尺骨茎状突起の移動距離・速度,頸部・体幹・股関節の運動角度を算出した。また,重心動揺計を用いて軌跡長・単位軌跡長を計測した。統計処理は,3条件のパラメータの比較には一元配置分散分析及びTuker法,両麻痺群と対照群の比較は対応のないt検定,尺骨茎状突起と各身体部位の移動距離との関係をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計ソフトはSPSSver.22を用い,有意水準は5%とした。【結果】自力リーチングにおいて,両麻痺群は対照群より,移動距離は頭部,C7及び尺骨茎状突起が有意に長く,ASISは有意に短かい(p<0.05)。また,股関節屈曲角度は有意に小さく,上・下部体幹屈曲角度は有意に大きかった(p<0.05)。また対照群は尺骨茎状突起と外側裂隙,頭部,Th7,C7の移動距離に高い相関(それぞれr=.51,r=.64,r=.69,r=.76,p<0.01)があり,両麻痺群は頭部にのみ高い相関があった(r=.78,p<0.05)。骨盤操作の場合,体幹操作より各部位の速度の増加,軌跡長や単位軌跡長が増加し,体幹伸展は小さい傾向があった。また,尺骨茎状突起と頭部,Th7,C7の移動距離に高い相関(それぞれr=.76,r=.84,r=.87,p<0.05)があった。体幹操作の場合,骨盤操作より頸部伸展角度及び上部体幹屈曲角度は減少し,軌跡長は有意に小さかった(p<0.05)。尺骨茎状突起とASIS,頭部,S1,Th7,C7の移動距離に高い相関(それぞれr=.84,r=.84,r=.85,p<0.05。r=.91,r=.94,p<0.01)があった。【結論】下部体幹や骨盤周囲の筋緊張が低下している両麻痺児のリーチングの代償運動は,骨盤の運動性低下のため,肩甲帯や上肢を過剰に前方に移動し,目標物を目視するために頸部は過剰に伸展する傾向がある。よりスムーズな重心移動や遠い場所へのリーチングを促通するための理学療法ポイントは,リーチングと骨盤運動を連動させるための体幹操作が有効であり,少ない重心移動でリーチングが可能になることがわかった。