- 著者
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殷 燕軍
- 出版者
- 関東学院大学経済経営研究所
- 雑誌
- 関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.94-124,
1970年代はじめからスタートした米中関係改善と戦略的協議は,ただ単に米中両国間の問題ではなく,国際政治の枠組みに大きなインパクトを与え,世界を驚かせた。1949年の新中国成立後から22年も「隔絶」され,また朝鮮戦争やベトナム戦争により敵国同士となった米中両国は,自国の戦略的国益のため,極めて早いスピードで準同盟関係を結び,首脳同士の間にも一時的に「水入らず」的な信頼関係が形成された。しかも米国はアジア最大の同盟国である日本に事前通告なしで行なわれたため,戦後長い間米国の対中政策に追随してきた日本政府に大きく衝撃を与えた。言ってみれば米国の一種の対日裏切り行為である。そればかりではなかった。戦略交渉のなか,外交関係も持たない米中両国は,二国間問題,地域問題,世界問題など幅広く,深くかつ率直的な意見交換をし,日本問題は「意外」に重要なテーマの一つになった。1970年代の米中交渉は今日の米中関係の基礎とも言える重要な意味があり,その基本的原則は今日も変わっていない。他方,米中接近の連帯的効果として日中国交正常化が実現された。しかし米中接近にはなぜ「日本問題」は米中会談の一つのテーマにならなければならないのかが必ずしも検証されなかった。さらにこの二つの出来事は冷戦構造を変えたばかりではなく,東アジアの枠組みを変化させ,かつて単純な日米対中というイデオロギーで構成した「二者的関係」から日米中の三者関係へ変質させ,日米関係にも亀裂を生じさせた。本稿は近年米国側が公開した米中交渉に関する史料を根拠に,米中両国首脳の対日本認識と1970年代からスタートした日米中の三国関係を再考し,米中接近の意味,米中関係における日本問題の意味,日米関係における中国問題の意味を再吟味しようとするものである。