著者
水上 則子
出版者
日本スラヴ・東欧学会
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.81-108, 2010-03-31

本稿においては、以下のブィリーナ集を分析対象とした。(1)ルィブニコフ収集「歌謡集」(2)ギリフェルヂング収集「オネガ地方のブィリーナ」(3)マルコフ収集「白海のスターリナと宗教詩」(4)グリゴーリエフ収集「アルハンゲリスクのブィリーナと史謡」(5)ソコロフ収集「オネガ地方のブィリーナ」(6)アスターホヴァ収集「北方のブィリーナ」(7)「プードガ地方のブィリーナ」の7集の電子化テクストである。「славу поют」およびその類似表現のすべての出現箇所を挙げて、意味による分類を行ったほか、名詞славаの出現回数、動詞・形容詞を含む関連語の出現回数を調べ、「славу поют」とслава,слава関連語の使用頻度を明らかにした。分析によって得られた結論は以下のとおりである。1.オネガ地方の収集である(1)、(2)、(5)を比較すると、収集の年代が新しいほど、слава関連語の使用頻度が低くなるのに対し、名詞славаの使用頻度は逆に高くなっている 2.オネガ地方のうち、複数回の収集が行われていて、「славу поют」の使用頻度が高いКижиとПудогаの状況の分析を、(1)、(2)、(5)、(7)において行った。Кижиにおいては、この表現を好んで用いる特定の歌い手の役割が大きく、この歌い手の死後には、この地域における使用頻度が下がっていること、Пудогаにおいては、世代交代後も使用頻度が極端に低くなることはなく、この表現の使用が地域的な伝統となっていることが観察された 3.北方の収集である(3)、(4)、(6)では、特に(4)において「славу поют」の使用頻度が非常に高い。その中でも、Мезень地域における使用頻度の高さが際立っている。しかし、(6)に収録されている同地域の品の中では、使用頻度がかなり低下している。Мезень地域においては、(4)の中で「славу поют」を使用している歌い手は17名を数えている。Кижиの場合とは異なって、特定の歌い手の好みによってではなく、地域的な伝統として用いられていたと考えられる。このため、約30年後に行われた(6)の収集において使用頻度が大きく低下していることは、Мезень地域のブィリーナ伝統の変化を示している可能性がある