- 著者
-
水野 正朗
- 出版者
- 日本教育方法学会
- 雑誌
- 教育方法学研究 (ISSN:03859746)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, pp.1-12, 2009-03-31 (Released:2017-04-22)
本論文では,文学テクストを教材とした国語の授業において,児童生徒から提出される多様な解釈をどのように扱うべきかという問題を,現代文学理論や記号論を手がかりに理論的に検討した。その結果,イーザーの読書行為論から,文学テクストは多様な解釈への潜在的な可能性を持つが,その可能性の幅はテクストに内在する戦略によって一定の幅に制限されていること,エーコの記号論から,文学テクストは文化的・社会的共同体における間主観的な合意の原理によって意味が規定されること,フィッシュの「解釈共同体」の理論から,解釈間の相互規定関係が重要であることが示唆された。さらに,スコールズの文学教育理論から,広義の「読み」のプロセスの中に「読むこと」「解釈」「批評」という3層が含まれ,それらが相互にかかわり合いながら,読みを動的に発展させていくことが示された。学級という学習共同体のなかで営まれる読みにおける個人思考と集団思考の関係は,必要となる読みの課題の特性によって動的に変化しつつ発展する。児童生徒と教師が,多様な解釈の可能性を前提にして討論することで,個々の認識を包含しつつ高いレベルで調和した読みが社会的に構成される。そして,その共同体内で開示され共有されたテクストの経験が,学習者の経験の蓄積に組み込まれることで,学習者それぞれの自己発見や自己変容を誘い,一人ひとりの主体的な読みを開くのである。