著者
高 宜良 永安 朋子 内藤 あかね 中井 久夫
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.287-336, 1997-03

直接治療に関与した強迫症の長期外来治療例全例9例の記録とグラフ表現とによって治癒過程を研究した。その際,本症を全生活障害と捉えて身体診察とアートセラピーを行い,また症状の改善にもまして生活の再開と拡大とを重視した。治癒過程は特徴的に症状中心期,感情表出期,生活拡大期の3期と,各段階の移行期に分けられ,段階ご存に「病圧」が格段に低下する。全体を通じての治癒的因子は,睡眠,薬物に対する心理的受容性,必要薬物の比較的少量,症状の生活阻害が部分的であることである。治療者側の基本的態度は超自我的脅威と専門家的不関性とを避けて基本的信頼の維持を態度で示すことである。これは特に治療中断後の再開時に重要である。また,症状中心期においては,目標は患者の意識における症状の脱中心化と患者の士気の維持向上である。治療の反作用として身体的動揺と身体症状の発現,症状の激化,行動化とが出現するが,いずれも一過性であり,治療に活用しうる。続く移行期にはしばしば治療上意味のある患者の「一時雲隠れ」が起こる。その意義は土居の甘え理論によっても森田の精神交互作用によっても理解しうる。感情表出期においては症状よりも,生の苦悩と苦渋な生活状況とが中心となる。治療的セレモニーの雰囲気の醸成のために音調の重視,アートセラピー,身体診察が貢献する。生活拡大期においては患者を信頼し,支持的態度とタイミングについての助言でよい。
著者
永安 朋子 高 宜良 中井 久夫
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.219-239, 1997-03
被引用文献数
1

精神分裂病はしばしば,長期,多様,変化に富む疾患である。本論文は再発なく数年から十数年に及ぶ緩慢な回復過程をとった症例全3例の自験例について初診以来の全経過を追跡展望するもので,そのため症状の推移を明確に図上に同定しうるグラフ形式を開発した。横軸には時間を,縦軸には症状をその特異性を初め主観的要素を一切排除し無差別的に発来の順序に配列し,持続的症状及び遷移的症状の軌跡と散発的症状とを抽出することができた。これを用い,症状を使用薬薬物量及び対人交流改善と生活圏拡大とに対応させた。第第1に,律速因子は強い打撃力を持つ持続的症状であるる。他方,遷移的症状は移行期を意味する。最重要な因因子は睡眠であり,睡眠が改善することなく回復が実現現した例はない。睡眠,夢,不安・恐怖は3つ組となってており,この解消が回復につながり,この3者が悪循環環を構成して破局に至るのが再発と考えられる。特に第第1例(青年男子)では専ら機会的な全不眠とほとんどど持続的な悪夢である。第2例(中年女子)では不安に始まり心気症状に終わる約2時間の発作的な病的挿間である。第3例(青年男子)では律速因子は幻聴の裏に潜む性的少数性の自覚にからむ葛藤である。第2に,治癒的変化は必ず反作用すなわち揺り戻しを伴う。精神(中枢神経系)に成立した病的な疑似的ホメオスタシスが身体の正常なホメオスタシスとのずれ回復困難を構成している可能性が抽出された。