著者
園田 立信 永延 清和 長谷川 信美 御手洗 正文
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

「家畜は夜作られる」という諺が昔は語られていた。これは、十分な急速によって、エネルギーのロスを少なくすれば、それだけ、家畜の健康を保証し、成長や生産を促進できるという科学的な常識であった。本研究グループは、上記の考えは理論的には間違っていないと考えるが、昨今の近代的、すなわち集約的な使用管理下の家畜での行動などの実態をみていると、現状では全く異なっているのではないかと発想し、下記のような調査を行った。本研究では、草地での放牧、コンクリート床のペン、ケージ(鉄枠)の3種の飼育管理条件を設定し、それらの生理的・行動的状態を、心電図、脳波、および暗視ビデオカメラを用いて調査した。なお、5分毎に睡眠の程度を、身体の動き、心電図、および脳波で評価し、5点満点で評価した。なお、豚の睡眠時脳波については、ヒト脳波の分類に近似させることを試みたが、出現波形の違いと出現頻度の特徴から6種類に分類し、他の生理的指標をあわせた。その結果、豚のおかれた飼育環境によって、睡眠の状態は著しく異なることが明らかとなった。すなわち、ケージ飼育では、見た目では"睡眠"下にあるが、脳波はα波がもっとも多く、深い睡眠を示す脳波は殆ど出現しなかった。この場合、心拍数は少なくなることはなく、多いままであった。従って、拘束下の豚は、行動面では横臥・伏臥しているが、エネルギー消耗の多い状態であることが明らかとなった。逆に、放牧された豚の脳波と心拍数を観察すると、横臥時の脳波は周期的に深いものとなり、心拍数も明らかに少ないことが観察された。従って、この豚ではエネルギー消耗の少ない休息を行っていることが明白であった。コンクリート床のペンで飼育した豚の休息時の生理的指標は、上記のケージ拘束と放牧との中間にあった。以上より、通常の集約的養豚システムでの豚では休息時もエネルギー消耗が多く、「寝る子は育つ」という諺はあてはまらないことが確認された。