著者
浜本 寿治 鶴崎 俊哉 永瀬 慎介 平田 恭子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A0439-A0439, 2005

【はじめに】<BR>我々はこれまでにもwavelet変換(WT)を用いた表面筋電図解析について報告してきた。その中でWTを用いた解析は、時間と周波数に関する膨大な情報を集約する必要を認めた。今回、漸増負荷による等尺性収縮時の筋活動について離散wavelet変換(DWT)を使用して独自のパラメータを算出し、若干の知見を得たので報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は健常女性20名(年齢23.4±1.5)で、被験筋は右上腕二頭筋とした。被験筋上の皮膚に、電極間距離2cmでディスポーザブル電極を貼付し、背臥位にて肘関節屈曲90度を保持させた。ワイヤーおよび滑車を介してポリタンクをつないだアームを前腕遠位部に肘関節伸展方向に負荷がかかるように設定した。それに水を注入し負荷を漸増させた。<BR> 測定は、まず最大筋力(100%MVC)を測定し、続いて負荷開始から肘関節を90度に保持できなくなるまでとし、その筋活動と負荷量を生体計測システム(NF回路ブロック製)を用いサンプリング周波数1kHzにてパーソナルコンピュータに取り込んだ。<BR> 採取したデータから、負荷量が5%MVC増加した時点毎に前後1秒間のデータを選択し、科学技術計算ソフト(MathWorks社製 MATLAB6.5およびWavelet Tool Box)にてDWTを行った。DWTは、信号波形を高周波部分(Detail)と低周波部分(Approximation)に分け、Approximationをさらに次のDetailとApproximationに分解する。この分解の深さがDWTの周波数表現となる。DWTにはDaubechies5、分解レベル5を用いた。<BR> その後、各レベルのwavelet係数の二乗和をDetailのパワー密度(PD)、すべてのwavelet係数の二乗和を総パワー密度(TPw)、TPwに対する各レベルのパワー密度比(RPD)、100%MVC時のTPwに対する漸増負荷時のTPwの比(RTPw)を求めた。<BR> 得られたデータは統計用ソフトウエア(SAS社製Stat View5.0)を用いて、二元配置分散分析にて交互作用を確認後、優位水準5%で多重比較を行った。<BR><BR>【結果と考察】<BR>本研究で用いたパラメータのうち、特に特徴的な所見が観察されたのはRPDであった。その中でも30%MVC以下の負荷時と70%MVC以上の負荷時において、レベル3では減少するのに対してレベル4においては逆に増加していた。<BR> 従来報告されている等尺性収縮時の局所性筋疲労の研究では、筋電図の低周波域がtype1線維の、高周波域がtype2線維の活動をそれぞれ反映しているとされている。またサイズの原理では、まずtype1線維から活動し、筋活動量が増加するに従いtype2線維が活動するとされているが、本研究では、それらの説とは異なる結果が得られた。これには、筋活動量の増加要因である時間的活動参加、空間的活動参加、各運動単位の活動のタイミングの一致(同期化)が関係しているものと思われる。今後、レベル3、4の違いを明らかにするために、さらなる研究が必要である。
著者
大久保 美保 安東 大輔 鶴崎 俊哉 志谷 佳久 上野 尚子 永瀬 慎介 濱本 寿治 平田 恭子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0877, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】臨床において、中枢神経疾患による筋緊張の異常は姿勢や動作による影響を受けやすく、日常生活動作や随意運動を遂行する上での障害となることが多い。また、程度も多様で個人差も大きく、各個人の動作時の筋緊張を客観的に評価する必要がある。先行研究では、Wavelet変換を用いて1)関節トルクを筋電信号から推定することができること、2)関節トルクの推定式から屈筋のトルクと伸筋のトルクとに分けることができること、3)これらの推定が同時収縮の場合と漸増抵抗の場合のいずれでも成り立つことの3点が示唆されている。本研究では片麻痺患者に肘関節の屈曲、伸展方向への等尺性収縮を行わせ、前腕に生じる力を計測し表面筋電からの実際の関節トルク値と先行研究のトルクの推定式との値を比較・分析し、運動の効率性を定量的に評価できる可能性の有無や、臨床での有効性を検討することを目的とした。【対象と方法】対象は片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢62.8±3.4歳)で、上肢のBrunnstrom stage(以下stage)が3~4(stage3が3名、stage4が2名)であった。対象者を背臥位にて患側の肩関節内・外転0度、肘関節90度屈曲、前腕90度回外位にて前腕をロードセル(以下LC)に固定し、肘関節屈筋群と肘関節伸筋群から表面筋電信号(以下SEMG)を導出した。SEMGおよびLC信号は筋電信号計測装置を経由してPCに取り込んだ。導出条件は1:安静後、2:麻痺側上肢ストレッチ後、3:非麻痺側肘関節最大随意収縮後の3条件で、漸増屈曲を5秒間かけて行い、その後、漸増伸展を5秒間かけて行った。力の強さは任意とした。SEMGとLC信号において、各条件ごとに(1)漸増屈曲(2)漸増伸展のそれぞれ5秒間を任意に抽出して0.5秒ずつに区切り10箇所の信号を分析信号とした。このSEMGからwavelet変換を用いて0.5秒間のエネルギー密度の総和(以下TPw)を算出した。LC信号より求めた関節トルクと屈筋群および伸筋群のTPwから対象者毎に回帰式を求め、関節トルクの予測値を算出し、実測値との相関を求めた。【結果】stage3の人では3例とも安静後は相関が得られた(p<.0001)。抵抗運動後はトルクの屈曲相、伸展相の2相性がみられず相関も低かった。Stage4の人では2例とも各条件下で相関が得られた(p<.0001)。各条件下での屈筋と伸筋の最大値を比較すると、屈筋において一方は抵抗運動後、他方はストレッチ後に最大値をとっていた。伸筋においては、一方はストレッチ後、他方は安静後に最大値をとっていた。【考察】stage4では関節トルクの実測値と推定値に強い相関があり、運動の効率性を定量的に評価できる可能性が示唆された。Stage3では静止時の筋緊張の状態や、与えられた環境因子に左右されやすいことが伺え、今後、これらの情報を加味して再検討することが必要であると考えられた。