著者
江 衛 山下 清海
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.106, 2003

最近における華人社会をグローバルスケールでみた場合、その大きな特色の一つは、華人の「新移民」および「再移民」の増加である。華人社会研究においては、中国の改革・開放政策の進行以後の中国大陸出身の新しい移民や1997年の香港の中国返還を前にした移民ブームで海外に移住した香港人、さらには最近の台湾人移民などを「新移民」と呼んでいる。また、いったん東南アジアや南アメリカなどへ移住した華人(ベトナム系華人など)が、さらに他の地域へ移住して行く現象を「再移民」と呼んでいる。 従来の伝統的な華人社会は、新移民や再移民の増加によって、大きな変容を迫られている。アメリカやカナダでは、従来のチャイナタウン(オールドチャイナタウン)の中に新移民や再移民が流入する一方で、彼らによる新しいチャイナタウン(ニューチャイナタウン)も形成されている(山下,2000)。 今日および今後の華人社会を考察する上で、これら新移民と再移民の動向に注目する必要がある。在日華人社会に関する従来の研究においては、横浜・神戸・長崎の日本三大中華街や伝統的華人社会を対象にした研究が多く、最近における華人新移民に焦点を当てた研究は乏しい。 外国人登録者数に基づく『在留外国人統計』の中国人(中国籍保有者)の人口をみると、1982年末の中国人は59,122人であったが、20年後の2002年末現在の中国人は424,282人に膨らんでいる。本研究では、日本において増加する華人新移民の動態を明らかにするために、埼玉県川口市芝園団地における中国人ニューカマーズの集住化のプロセスとそこにおける彼らの生活実態を明らかにすることを目的とする。 なお、本研究が対象とする華人新移民のほとんどが中国大陸出身のニューカマーズであることから、本研究では、中国大陸出身(香港・台湾出身者を除く)の華人新移民という意味で中国人ニューカマーズという語を用いることにする。 一般に華人社会の研究においては、関連の統計の不足に加えて、華人の警戒心の強さなどから聞き取り調査やアンケート調査の実施は容易ではない。本研究では、共同研究者の一人が中国出身者すなわち「同胞」である点を生かして、研究対象者との信頼関係を徐々に築きながら、出身地・学歴・職業・来日時期などについて聞き取りおよびアンケート調査を実施し、芝園団地への集住化のプロセスについて考察し、芝園団地在住の中国人ニューカマーズの生活の実態について明らかにした。