著者
江口 厚仁
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、内外の最新の研究動向を参照し、「日本型法化社会」の動態に適合するリスク・マネジメント・システムの基礎理論を構築することにより、多種多様なリスク問題に対する法システムの応答可能性を模索する試みとして計画・実施された。研究計画最終年度(20年度)は、初年度から継続的に収集してきた内外の文献・資料・データの翻訳・要約・分類・整理をつうじて、現代日本社会のリスク・マネジメント問題の全体像を俯瞰する理論体系の構築と、研究成果の公刊に向けて準備を進めてきた。あわせて、効率的なデータ検索・利用に資するデータベースの作成作業にも引き続き取り組んだ。本研究計画の期間をつうじて、現代日本社会における市民的公共性/専門家倫理/リスク管理の実態を批判的に再検討する研究会・セッション・出版企画などに参与し、本研究の中間的成果を示す論考二本を順次公刊するとともに、21年度上半期には岩波書店より「暴力・リスク・公共圏-国家の暴力/社会の暴力と折り合うための技法-」を含む書籍の公刊が決まっている。本研究の最終年度にあたって、リスク・コミュニケーションそれ自体のはらむリスク、及びそのマネジメント上の問題点を、リスク管理の技術的問題を越えた市民社会的視点から、かなりの程度まで明らかにできたものと考える。だが他方で、現時点では研究成果の一部を漸進的に公表する段階にとどまっているため、今後も本研究の所期のテーマを継承し、その全体像を解明した体系的論考へとまとめていく研究に引き続き取り組む所存である。