著者
池上 雄作 岩泉 正基 樋口 治郎
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

1.高時間分解ESR法による常磁性化学種の生成・反応動力学:時間分解ESR測定装置が各所で稼働するようになり、とくに光化学過程の研究に広く応用され、常磁性化学種間のスピン分極保持T-Tエネルギ-移動やCIDEP法による過渡的生成ラジカル対の直接観測は顕著な成果である。励起三重項状態の研究に不可欠の手段となり、含窒素芳香族化合物やカルボニル化合物の生成と減衰が広く研究された。光励起プロトン移動や水素移動、結合開裂の機構研究により、多数の成果を得た。2.常磁性励起分子の電子状態と緩和:時間分解ESR法と発光スペクトル、ODMR法を組み合わせ、とくにスピン副準位に関連した議論を含めたT_1状態の反応が数多く研究された。芳香族ニトロ化合物、含窒素芳香族化合物、オルトキノン類、カルボニル化合物が対象となった。さらに有機ラジカル結晶の電子スピン状態と磁性の研究がよい成果を得た。3.凝縮相捕捉不安定常磁性種の構造と反応:飽和炭化水素カチオンラジカルの電子状態、分子運動の研究、蛍光検出ESR法の新導入、強磁性高分子に焦点を合わせたスピン整列機構の研究や、包接されたラジカルの研究等に関して顕著な成果が得られた。4.錯体・有機金属常磁性種の構造と反応:多核錯体についてレニウム錐体の電子構造、コバルトクラスタ-錯体の金属原子置換による酸化還元電位の依存性、銅錯対のENDOR法による研究、シリル、ゲルミルラジカルの構造や錯体の光化学反応等の成果が得られた。5.生体関連常磁性種の生成、構造および反応:生体系における活性酸素のスピントラップ法の研究、脂質二分子膜輸送系のスピン標識キャリヤを用いた研究、UV照射水晶体タンパク質中の短寿命フリ-ラジカルの研究などで大きな進歩があった。