著者
松岡 裕之 池澤 恒孝 服部 隆太 富田 博之 平井 誠
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.60, pp.78, 2008

蚊は吸血に先立って皮膚に唾液を注入する。唾液中に存在する血管拡張物資により血管が拡張すると,口吻を差し込み吸血を開始する。ワクチン効果のある蛋白を蚊の唾液腺に発現させておけば,吸血のときその蛋白が被吸血動物に注入されるので,その動物(ヒト)はその蛋白に対する抗体を持つようになる。この発想はFlying syringe と呼ばれ20年前から構想はあったが実現してこなかった。昨今,蚊においても遺伝子導入が可能となってきており,唾液腺に特異的に発現する蛋白のプロモーターを使うことで,唾液腺に外来性の蛋白を発現できる可能性が出て来た。一方我々は,マラリアのワクチン候補蛋白のひとつとして,スポロゾイト表面蛋白(CSP)を提唱している。マラリア原虫におけるCSPはスポロゾイトの表面に豊富に発現している蛋白である。我々はこのCSPのほぼ全長をコードする遺伝子をハマダラカ(<I>Anopheles stephensi</I>)唾液腺特異的蛋白のプロモーター下流に組込み,トランスポーザブルエレメント<I>Piggyback</I>に挟み込んで産卵直後のハマダラカ卵に注射した。レポーター蛋白として緑色蛍光蛋白(GFP)も組込んでおき,これを指標として遺伝子組換えを起こしているハマダラカを選別し,系統化した。これまでに数系統の遺伝子導入ハマダラカを得た。これら数系統の蚊の唾液腺を抗原とし,抗CSP抗体を使ってELISAを実施したところ,CSPを発現していると思われる系統が見つかった。最も発現量の多い蚊系統では1個体の唾液腺中に10ng程度のCSPが産生されていると推定された。このCSP発現蚊群に,繰り返しマウスを吸血させたところ,マウスにおいて抗唾液腺抗体は上昇したものの,抗CSP抗体は産生されて来なかった。唾液腺細胞で産生されたCSPの,唾液への分泌が不良であることが原因であると考えている。