著者
池田 四郎 関根 嘉香
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.16-23, 2009-01-10
被引用文献数
1

大気質の管理には,これまで化学的よび物理的手法が用いられてきた。バイオアッセイは,生物応答を利用した環境汚染物質に対する有害性評価法であるが,大気質での適用例は少ない。筆者らは,海洋性発光バクテリアVibrio fischeriを利用した簡易毒性評価法の開発を目的に,発光バクテリアに対する大気中粒子状物質の影響について検討した。2007年12月から2008年4月にかけて東海大学湘南校舎4階ベランダにおいて,通気流量23.5L/minのローボリュームエアサンプラーを用い,7日間連続で大気中総浮遊粒子状物質(TSP)を石英繊維製フィルター上に捕集した。また2008年6月〜9月にかけて,通気流量22.0L/minのローボリュームエアサンプラーに接続したアンダーセンサンプラーを用いて大気浮遊粒子状物質を分級捕集した。試料を滅菌蒸留水で振とう抽出し,抽出液をポアサイズ0.45μmのフィルターでろ過した。その後,ろ液を24ウェルプレート内でバクテリアに作用させ,ルミノメーターにより生物発光強度を測定した。本研究では,日立化成工業株式会社機能性材料事業部ライフサイエンス部門による提供の下,Rapid On-site Toxicity Audit System (ROTAS^<TM>)のLeachableキットをバイオアッセイに利用した。その結果,バクテリアの生物発光量は大気中の粒子状物質に阻害されることがわかった。また,生物発光が大きく阻害される場合においては,通気量あたりの発光阻害度(%/m^3とTSP濃度(μg/m^3)の間に直線性が認められた。つまり,大気中浮遊粒子状物質には有害性がありTSP濃度に応答的であった。バクテリアに作用させた溶液は,黒色の微粒子によるコロイド溶液であった。そこで,この溶液を遠心ろ過し黒色微粒子を分離した。分離した粒子は透過型電子顕微鏡TEMを用いて観察し,さらにエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置EDXによる成分分析をした結果,炭素を主成分としたススであることがわかった。このススが,バクテリアの発光を阻害した原因である可能性が示唆される。一方,TSP濃度が大きいにもかかわらず大気中浮遊粒子状物質が生物発光阻害を見せない場合もあった。年末年始の交通量が少ない時期や,花粉や黄砂が多く観測された春先が該当する。このことから,大気中浮遊粒子状物質には海洋性発光バクテリアの発光を活性化させる成分も含まれている可能性がある。また粒径2.1μmを下回る微小粒子が,バクテリアに対し高い発光阻害度を示した。このことから本法を利用し,PM2.5を対象としたバイオモニタリング技術開発の可能性が挙げられる。