著者
川上 裕司 関根 嘉香 木村 桂大 戸高 惣史 小田 尚幸
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-30, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
3

自分自身が皮膚から放散する化学物質によって,周囲の他人に対してくしゃみ,鼻水,咳,目の痒みや充血などのアレルギー反応を引き起こさせる体質について,海外ではPATM(People Allergic to Me)と呼ばれ,一般にも少しずつ知られてきている。しかしながら,日本では殆ど一般に認知されておらず,学術論文誌上での報告も見当たらない。著者らはPATMの男性患者(被験者)から相談を受け,聞き取り調査,皮膚ガス測定,着用した肌着からの揮発性化学物質測定,鼻腔内の微生物検査を実施した。その結果,被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出された。また,被験者の皮膚から比較的高い放散量が認められたヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用後の肌着からも検出された。被験者の鼻腔内から分離された微生物の大半は皮膚の常在菌として知られている表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)であった。分離培地上でドブ臭い悪臭を放つ放線菌(Arthrobacter phenanthrenivorans)が分離されたことはPATMと何か関連性があるかもしれない。また,浴室や洗面所の赤い水垢の起因真菌として知られている赤色酵母(Rhodotorula mucilaginosa)がヒトの鼻腔内から分離されたことは新たな知見である。この結果から,PATMは被験者の思い込みのような精神的なものではなく,皮膚から放散される化学物質が関与する未解明の疾病の可能性が示唆された。
著者
関根 嘉香
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

ヒト皮膚から放散される微量生体ガス(皮膚ガス)は体臭の原因となり、他者の快・不快感に影響することがある。一方、自分の皮膚ガスによって周囲の人がアレルギー様症状を発症すると主訴する人たちが存在する。このような現象・症状はPATM(People Allergic To Me)と呼ばれ、科学的・医学的には未解明であった。本研究では、PATM主訴者に特徴的な皮膚ガスの種類・放散量を明らかにすることを目的に、パッシブ・フラックス・サンプラー法による皮膚ガス測定を行った。その結果、PATM主訴者の皮膚ガス組成には健常者と異なる特徴があり、臭気を伴いながら他者に刺激を与える成分が存在することがわかった。
著者
関根 嘉香 臼杵 英俊 宮城 圭輔 小座野 貴弘
出版者
一般社団法人 日本環境化学会
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.113-119, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
22

Secondary emission products generated through chemical reactions become a recent concern in relation to indoor air quality. We have focused on formic acid (HCOOH) whose generation mechanism in indoor air has been unknown. In this study, we examined influence of oxidant on the indoor air concentrations of HCOOH and emission process of HCOOH by both laboratory experiments and field measurements. Firstly, emission fluxes of HCHO and HCOOH from plywood were determined using a small bowl-type stainless chamber. The emission flux of HCOOH increased with those of HCHO under ambient air containing oxidant. While the oxidant was removed in the chamber, HCOOH significantly emitted with NO2 at the chamber outlet. We then concluded HCOOH is a product of the gas phase reaction between HCHO, NO2 and O3. Field measurements conducted at a newly-build detached house supported the conclusion as that indoor concentrations of HCOOH increased with an increase in concentrations of the oxidant introduced from outdoor by air ventilation.
著者
高橋 万葉 関根 嘉香 古川 英伸 浅井 さとみ 宮地 勇人
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-22, 2013 (Released:2013-06-01)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

室内空気中のアセトアルデヒドの発生源および発生機構については不明な点が多い。本研究では,これまで考慮されてこなかったヒト皮膚表面から放散するアセトアルデヒドの室内空気中濃度に及ぼす影響について,パッシブ・フラックス・サンプラー法による健常人ボランティアを対象とした放散フラックスの実測に基づき検討した。その結果,ヒト皮膚由来のアセトアルデヒドの放散速度は,飲酒後の呼気に由来するアセトアルデヒドの放散速度よりも大きく,呼気よりも重要な発生源であることがわかった。居室の在室者1名を想定した場合,皮膚由来のアセトアルデヒドは,室内濃度指針値レベル(48 μg m-3)に対しては0.87~2.3 %の寄与であったが,飲酒を伴う場合は居室の臭気源になる可能性が示唆された。在室者が複数いる場合には,皮膚からの放散速度は無視できないほど大きな寄与を示す可能性があり,皮膚ガスは新たに着目すべき発生源の一つとなる可能性が示唆された。
著者
笈川 大介 高尾 洋輔 村田 真一郎 竹内 弥 下山 啓吾 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.113-121, 2011 (Released:2012-02-24)
参考文献数
15
被引用文献数
3

東日本大震災により多くの住民が避難生活を余儀なくされている。避難者の生活を一時的に安定させるため,約72,000戸の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)が宮城県,福島県,岩手県などに建設されている。一方,国外の災害において,仮設住宅に避難した住民が高濃度ホルムアルデヒド曝露により健康被害を受けた事例がある。宮城県では国土交通省の指示に基づき,仮設住宅の供給メーカーに対して1発注につき1戸(50~60戸に1戸)の割合で住宅性能表示制度に定める特定測定物質5物質(ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,エチルベンゼンおよびスチレン)の室内濃度測定を課し,仮設住宅の空気性能の管理に務めている。しかしながら法定5物質以外の物質が室内空気を汚染する可能性があり,詳細な化学物質調査が必要である。そこで筆者らは,宮城県の協力のもと,2011年6月20日に宮城県内1地区の仮設住宅5戸,6地点を対象に室内空気中化学物質濃度の現地調査を行った。対象物質はアルデヒド・ケトン類3物質,揮発性有機化合物43種類およびTVOC(Total Volatile Organic Compounds)濃度とした。その結果,法定5物質を含む室内濃度指針値の設定されている物質は,測定点全てにおいて指針値以下の濃度レベルであった。しかしTVOC濃度は1700~3000μg/m3で暫定目標値の4倍~7.5倍であり,指針値の設定されていない化学物質の寄与が高かった。
著者
関根 嘉香 木村 桂大 梅澤 和夫
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.410-417, 2017-11-25 (Released:2021-07-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

近年の機器分析法の発展に伴い,ヒト体表面から発せられる微量な生体ガス(皮膚ガス)の種類や放散量が明らかになり,ヒトの身体的・生理的状態,種々の疾病の有無,生活環境や生活行為との関連に注目が集まっている.皮膚ガスは,体表面から放散される揮発性の有機・無機化合物の総称であり,代謝生成物や外来因子,皮膚表面における生物的・化学的反応生成物などから構成される混合ガスである.本稿では,皮膚ガスの種類や放散経路に関する基礎的な知見,および筆者らが開発した簡便な皮膚ガス測定法の概要,およびいくつかの臨床応用例を紹介し,皮膚ガス測定が健康・医用面において極めて有望な研究視座を与えることを述べる.
著者
川上 裕司 関根 嘉香 木村 桂大 戸高 惣史 小田 尚幸
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-30, 2018
被引用文献数
3

自分自身が皮膚から放散する化学物質によって,周囲の他人に対してくしゃみ,鼻水,咳,目の痒みや充血などのアレルギー反応を引き起こさせる体質について,海外ではPATM(People Allergic to Me)と呼ばれ,一般にも少しずつ知られてきている。しかしながら,日本では殆ど一般に認知されておらず,学術論文誌上での報告も見当たらない。著者らはPATMの男性患者(被験者)から相談を受け,聞き取り調査,皮膚ガス測定,着用した肌着からの揮発性化学物質測定,鼻腔内の微生物検査を実施した。その結果,被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出された。また,被験者の皮膚から比較的高い放散量が認められたヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用後の肌着からも検出された。被験者の鼻腔内から分離された微生物の大半は皮膚の常在菌として知られている表皮ブドウ球菌(<i>Staphylococcus epidermidis</i>)であった。分離培地上でドブ臭い悪臭を放つ放線菌(<i>Arthrobacter phenanthrenivorans</i>)が分離されたことはPATMと何か関連性があるかもしれない。また,浴室や洗面所の赤い水垢の起因真菌として知られている赤色酵母(<i>Rhodotorula mucilaginosa</i>)がヒトの鼻腔内から分離されたことは新たな知見である。この結果から,PATMは被験者の思い込みのような精神的なものではなく,皮膚から放散される化学物質が関与する未解明の疾病の可能性が示唆された。
著者
関根 嘉香 橋本 芳一
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.216-226, 1991-07-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
29
被引用文献数
5

日本は, 冬季から春季の北西季節風が卓越する時期に, 中国大陸の風下にあたる。近年, 中国および韓国の諸都市は急速に工業化, 都市化が進み, 大気汚染問題が生じている。これら大陸都市において発生した大気汚染物質が季節風によって輸送され, 日本の大気質に影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで東アジア地域における粒子汚染物質の長距離輸送現象を調べるために, 島根県松江市において大気エアロゾル試料を採取し, その成分分析結果から大陸都市の影響について検討を行った。大気エアロゾル中の成分組成比を韓国ソウル市のものと比較すると, 冬季の松江市における成分組成比はソウル市のものと類似し, 特にPb/Zn比は松江の夏季が0,22であるのに対して冬季は0.83となりソウル市での値と良い一致を示した。Pbは大陸都市において特徴的な有鉛ガソリン自動車から排出されるものであり, 松江市において冬季に観測された大気中Pbの一部は長距離輸送を起源とするものと考えらるれ.そこで拡散ボックスモデルにより長距離輸送の寄与を大まかに推定したところ, 松江市で観測された冬季のPb濃度の一部はソウル市からの長距離輸送による影響であると推定された。またTe/Se比により大陸都市の主要エネルギー源である石炭の燃焼排出物の影響を検討したところ, 同様に大陸都市の影響を受けている可能性が示唆された。
著者
関根 嘉香 武政 晃弘 太田 栞 三澤 和洋 熊井 夕貴
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

微小粒子状物質(PM2.5)に含まれる酸化還元活性物質(キノン類等)は、生体内で活性酸素の生成を促し、活性酸素による酸化ストレスが健康障害を引き起こす可能性がある。そこで本研究では、酸化チタンを担持した石英繊維フィルターを作成し、PM2.5をろ過捕集した後に紫外線(UV)を照射し、光触媒反応によるPM2.5の無害化を試みた。その結果、UV照射に伴いPM2.5の重量、有機・元素状炭素量が減少すると共に二酸化炭素の生成が認められ、光触媒反応により炭素成分を分解できることがわかった。またPM2.5の活性酸素産生能はUV照射後に有意に減少し、酸化ストレスの緩和に寄与することがわかった。
著者
孫 旭 関根 嘉香 鈴木 路子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.13-20, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
17

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は, 多くの人々の生活様式に変容を強いることになり, 中国東北地方の最大都市・遼寧省瀋陽市においても同様であった。本研究の目的は, 新型コロナウイルス感染症の流行により, 市民の生活習慣や環境意識がどのように変化したかを明らかにすることである。そこで, 2020年1月, 2020年7月および2021年1月に, SNSを通じて公募した瀋陽市に居住する100名に対してアンケート調査を実施した。対象者は3回の調査を通じて同一であり, 情報通信技術(ICT)リテラシーを有する50歳以上の人が主体であった。調査の結果を解析した結果, 新型コロナウイルス感染症の流行は, 市民の交通手段の選択, 調理時のマスクの着用などの生活習慣に影響した。一方, 感染症流行に伴う経済活動等の縮小によって瀋陽市の大気環境が改善され, 居住地の大気環境状況に関する不満は軽減されていた。環境汚染の原因として「環境保護への民衆の参加不足」や「環境に関する教育の不足」を指摘する人が増え, 環境保護に関する市民の意識が未だ不十分であるとの認識が浮き彫りにされた。
著者
関根 嘉香 ティースマイヤ リン
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.105-110, 2013

ミャンマー連邦共和国は2011年の新政権発足以降,民主化と経済改革に向けて変化を始めた。本稿では,環境化学者の視点から激変するミャンマーの環境事情の一端を紹介し,近い将来課題となるいくつかの環境問題について言及した。
著者
林 大貴 長岡 優輝 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-24, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
17

メタノールはこれまで生活環境中の空気汚染物質として,あまり注目されてこなかったが,自動車用燃料や燃料電池の水素源として新たな用途が広がりつつあり,生活環境中にメタノールガスが拡散する可能性が指摘されている。二酸化マンガンは室温でホルムアルデヒドと反応し二酸化炭素を生成することから,空気清浄材料の成分として実用に供されている。この二酸化マンガンが常温でメタノールガスをホルムアルデヒドにまで酸化できれば,ホルムアルデヒドの酸化分解と同様に常温常圧下で二酸化炭素にまで無機化できる可能性がある。そこで本研究では,物性の異なる4種類の二酸化マンガン粒子とメタノールガスの反応性を密閉式試験で調べた。その結果,室温において試験容器内の気中メタノール濃度は著しく減衰し,その減衰速度は二酸化マンガン粒子の比表面積に依存的であった。同時に気中二酸化炭素濃度の有意な増加が観測され,二酸化炭素への転化率は結晶構造に関係した。また反応容器中に中間体として極微量のホルムアルデヒドおよびギ酸種の生成を認めた。このことから,二酸化マンガンがメタノールガスに対しても常温酸化分解活性を有することが明らかとなった。
著者
笈川 大介 高尾 洋輔 村田 真一郎 竹内 弥 下山 啓吾 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.113-121, 2011
被引用文献数
2 3

東日本大震災により多くの住民が避難生活を余儀なくされている。避難者の生活を一時的に安定させるため,約72,000戸の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)が宮城県,福島県,岩手県などに建設されている。一方,国外の災害において,仮設住宅に避難した住民が高濃度ホルムアルデヒド曝露により健康被害を受けた事例がある。宮城県では国土交通省の指示に基づき,仮設住宅の供給メーカーに対して1発注につき1戸(50~60戸に1戸)の割合で住宅性能表示制度に定める特定測定物質5物質(ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,エチルベンゼンおよびスチレン)の室内濃度測定を課し,仮設住宅の空気性能の管理に務めている。しかしながら法定5物質以外の物質が室内空気を汚染する可能性があり,詳細な化学物質調査が必要である。そこで筆者らは,宮城県の協力のもと,2011年6月20日に宮城県内1地区の仮設住宅5戸,6地点を対象に室内空気中化学物質濃度の現地調査を行った。対象物質はアルデヒド・ケトン類3物質,揮発性有機化合物43種類およびTVOC(Total Volatile Organic Compounds)濃度とした。その結果,法定5物質を含む室内濃度指針値の設定されている物質は,測定点全てにおいて指針値以下の濃度レベルであった。しかしTVOC濃度は1700~3000μg/m<sup>3</sup>で暫定目標値の4倍~7.5倍であり,指針値の設定されていない化学物質の寄与が高かった。
著者
池田 四郎 関根 嘉香
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.16-23, 2009-01-10
被引用文献数
1

大気質の管理には,これまで化学的よび物理的手法が用いられてきた。バイオアッセイは,生物応答を利用した環境汚染物質に対する有害性評価法であるが,大気質での適用例は少ない。筆者らは,海洋性発光バクテリアVibrio fischeriを利用した簡易毒性評価法の開発を目的に,発光バクテリアに対する大気中粒子状物質の影響について検討した。2007年12月から2008年4月にかけて東海大学湘南校舎4階ベランダにおいて,通気流量23.5L/minのローボリュームエアサンプラーを用い,7日間連続で大気中総浮遊粒子状物質(TSP)を石英繊維製フィルター上に捕集した。また2008年6月〜9月にかけて,通気流量22.0L/minのローボリュームエアサンプラーに接続したアンダーセンサンプラーを用いて大気浮遊粒子状物質を分級捕集した。試料を滅菌蒸留水で振とう抽出し,抽出液をポアサイズ0.45μmのフィルターでろ過した。その後,ろ液を24ウェルプレート内でバクテリアに作用させ,ルミノメーターにより生物発光強度を測定した。本研究では,日立化成工業株式会社機能性材料事業部ライフサイエンス部門による提供の下,Rapid On-site Toxicity Audit System (ROTAS^<TM>)のLeachableキットをバイオアッセイに利用した。その結果,バクテリアの生物発光量は大気中の粒子状物質に阻害されることがわかった。また,生物発光が大きく阻害される場合においては,通気量あたりの発光阻害度(%/m^3とTSP濃度(μg/m^3)の間に直線性が認められた。つまり,大気中浮遊粒子状物質には有害性がありTSP濃度に応答的であった。バクテリアに作用させた溶液は,黒色の微粒子によるコロイド溶液であった。そこで,この溶液を遠心ろ過し黒色微粒子を分離した。分離した粒子は透過型電子顕微鏡TEMを用いて観察し,さらにエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置EDXによる成分分析をした結果,炭素を主成分としたススであることがわかった。このススが,バクテリアの発光を阻害した原因である可能性が示唆される。一方,TSP濃度が大きいにもかかわらず大気中浮遊粒子状物質が生物発光阻害を見せない場合もあった。年末年始の交通量が少ない時期や,花粉や黄砂が多く観測された春先が該当する。このことから,大気中浮遊粒子状物質には海洋性発光バクテリアの発光を活性化させる成分も含まれている可能性がある。また粒径2.1μmを下回る微小粒子が,バクテリアに対し高い発光阻害度を示した。このことから本法を利用し,PM2.5を対象としたバイオモニタリング技術開発の可能性が挙げられる。